『ワイルドライフ』の味わい深さ
最近、俳優が監督する映画がおもしろい。ポール・ダノが監督をして、キャリー・マリガンとジェイク・グレンホールが出ていると知って、劇場で見たのが『ワイルドライフ』。これが実に地味な内容だが、なかなか味わい深い。
舞台は1960年代。最初はギレンホールとマリガンが演じる夫婦と14歳の息子ジョーの仲睦まじい家族の姿が映る。3人は父の仕事のために田舎に引っ越してきたばかり。ところが父は職場での行き違いで辞めてしまう。母はプールのコーチとして働き始め、ジョーは写真館のバイトを始める。
そこから何となく亀裂が生まれ始め、ある時父は遠くの山火事の消火作業に加わるという。母は嘆き悲しむが、プールで知り合った金持ちの中年男と仲良くなることで気を紛らせる。ジョーは母の変化を見つめる。ある時、父は帰ってきて森林局に仕事を見つけたので引っ越そうと言う。
それだけの話だが、夫思いの優しく美しい30代の母親が次第に情欲に身を任せてゆくさまを演じるキャリー・マリガンから目が離せない。その表情や服装や化粧の変化の一つ一つが痛々しい。そして気位は高いがパッとしない父親を演じるジェイク・ギレンホールが実にリアル。それらすべてをジョーは「見る」。
全体が青みが買ったトーンの映像で、長回しで丁寧に取られている。母が仕事を探す様子やプールで水泳を教える過程、あるいはジョーが写真館で次第に技術を覚えてゆくさまが、見ていて気持ちがいい。とりわけ写真館でそこで写真を撮ってもらう人々のさまざまな表情一つ一つが心に残る。
つらい内容の映画だが、ジョーが世界を「見る」ことで少しずつ成長してゆくさまを見て、後半には何となく落ち着いてゆく。見終わった時には1960年代のアメリカの田舎の風景が妙に懐かしいものとして刻み込まれる。音楽も繊細で身に染みた。
見終わってHPを見たら、撮影のディエゴ・ガルシアはタイのアピチャッポン・ウィーラセタクンやメキシコのカルロス・レイガダスと仕事をしていたことがわかった。音楽のデヴィッド・ラングは有名な作曲家でパオロ・ソレンティーノの『グランド・フィナーレ』も担当していた。
一見小品のように見えて、実は俳優ばかりでなく、スタッフも超一流を揃えての満を持したポール・ダノの初監督作だった。
| 固定リンク
「映画」カテゴリの記事
- なぜかイタリア映画の専門家に(2026.08.07)
- 『プライベート・ケース』のフランス映画らしさ(2026.08.05)
- 『海辺の一日』に息を飲む(2026.07.30)
- 「出光真子」展に行かねばならない(2026.07.26)
- 『八つ墓村』をめぐって(2026.07.24)


コメント