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2019年7月17日 (水)

『暁闇』の見せる世界

7月20日公開の『暁闇』を見た。正確に言うと、試写には行けなかったが送られてきたDVDを見た。1995年生まれの阿部はりかの初監督作品で57分だが、その描く世界に「今の若者はこんなことを考えているんだ」と深い思いに誘われた。

4人の中学生が出てくる。コウはすべてに対して冷めており、教師をする自分の父が学校でいじめられても無関心。彼は放課後コンピューター上で音楽を作り、ネットで配信している。トモコはコウと付き合っているが、2人は本当に仲がいいのかわからない。

ユウカはネットで見つけたコウの音楽を聴いている。彼女は渋谷の円山町で出会う男たちと一夜限りの関係を結ぶ。彼女の友人のサキの両親は喧嘩ばかりしているが、サキもコウの曲が好きだ。

ある時、ユウカは円山町のホテルの窓から作曲をしているコウの姿を見る。ところがコウはある日ネット上から自分の音楽を消してしまう。ユウカはサキを連れて、円山町のビルでコウを見つける。3人は花火をしたりしながらそこに集まるようになる。

ここで描かれるのは、親も学校も全く眼中になく、ネットで音楽を流すことやそれを聞くことだけが生きがいの若者たちだ。実際に今の中学生がそこまで追い詰められているのかわからないが、出てくる若者たちの無気力な孤独ぶりはただ事ではない。

大人たちの描写は類型的だし、映画らしいドラマも弱い。援助交際やリストカットなどもありきたりだ。それでも3人中学生がビルの屋上でたたずむ姿はめったにないほど緊張感が溢れているし、終盤の土手での花火の映像は見事というほかない。

私の大学の卒業制作もそうだが、最近はわかりやすいドラマを作る若者が増えた。それらに比べてこの監督は自分の感性を軸に違う方向に突っ走っており、今後大いに期待できそう。

ところで、前にここに映画『新聞記者』の各紙映画評を比較して論じたが、それをもとにした原稿が昨日朝日新聞デジタルの「論座」にアップされたのでご一読を。

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