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2019年7月23日 (火)

『火口のふたり』に考える

8月23日公開の荒井晴彦監督『火口のふたり』の試写を見た。配給会社から試写状が来た時はどうしようかと思っていたが、監督本人からふるえるような文字で書いた試写状が届いたので、行くことにした。昨年お世話になったことがあったし。

結論から言うと、かなりおもしろかった。荒井氏は長年著名な脚本家として活躍してきたが、その実績に比べると前の監督作品『この国の空』はどこか腑に落ちなかった。全編に政治的な隠喩が気になって、話に入れなかった。

今回も明らかに3.11以後の状況を描いたものだし、自衛隊の活動にも何度も触れている意味で政治的なのだが、どこか肩の力が抜けている気がした。それはこれが単なる男女の性愛を描いたものだからだろう。

30過ぎの賢治(柄本佑)が、父からの電話で秋田に帰ってきた。昔の恋人の直子(瀧内公美)が結婚するので式に出るためだ。10日ほど早めに帰ってくると、すぐに直子が遊びにやってきた。直子の家に行くと、そこには裸の2人が写ったアルバムがあった。

直子は「今夜だけ、あの頃に戻ってみない」とささやき、最初は断っていた賢治もキスをされると止まらなくなった。翌日、朝起きると賢治は直子の家に行く。そして直子の婚約者が帰ってくるまでの間を2人は新居で過ごす。

2人が過去を思い出しながらイチャイチャ抱き合う、それだけの話で115分。ほかに出てくる台詞のある登場人物はいない。ひたすら2人だけだ。それなのに、見ているといい気持ちになってくる。

2人が東京に一緒に住んだこと、2人はいとこ同士であること、賢治はその後別の女と結婚したこと、直子が結婚しようとする相手は自衛隊の幹部であることなど、会話のなかから2人の過去と現在が少しづつ明らかになる。そして終盤に日本を揺るがすようなことが起こり始める。

若い頃に愛し合っていた、その過去へのノスタルジーが下田逸郎のギターのフォークソングと共に素直に表わされる。そして3.11後の日本人の生き方についても考えだす。全体に古臭い感じは漂うが、それが柄本佑と瀧内公美のまだまだ若い身体を通して見せられると、これでいいのかと納得する。

それにしても、これほど性愛を正面から描いた映画を久しぶりに見た気がする。なぜか今ではほとんど見なくなった。それもまたこの映画を好きになった理由だ。

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