ベネチアの快楽:その(2)『真実』をめぐって
10月11日公開の是枝裕和監督の『真実』をベネチアで見た。カトリーヌ・ドヌーヴ、ジュリエット・ビノーシュ、イーサン・ホークという世界的なスターを使い、全編をフランスで撮影したので話題になっていた。脚本、編集も監督本人だが、撮影や美術などのスタッフはすべてフランス人。
3年前の黒沢清監督の『ダゲレオタイプの女』と同じく、まさにフランス映画として撮られた映画である。私は『ダゲレオタイプの女』は黒澤監督の中でも相当の出来だと思ったが、日本で事前に見た時は『真実』に関しては少し微妙な感想を持った。
最近の『万引き家族』などに比べて、登場人物の複雑な心理への食い込みが足りない、そんな気がした。あえて自分のよく知らないフランス人の心の奥を掘り下げず、軽く流したといったらいいのか。
ところがベネチアのコンペのオープニングで見たら、だいぶ印象が違った。ヨーロッパの観客の大きな反応がじかに伝わってくる。実は公式上映には入れずに同じ時間帯に一般向けの有料上映で見たが、とりわけカトリーヌ・ドヌーヴが話すごとに観客から大きな笑いやため息が漏れた。
私も、すべてフランス語の映画で日本語字幕を追って見ていたらそんなに笑えなかったが、フランス語の声や英語字幕を追っていくと、ドヌーヴやビノシュや周りの人物のセリフが何倍も生き生きして見えた。是枝監督のオリジナルの脚本なのに、欧州の映画好きを唸らせるくらい細かな脚本だったのではないか。
物語は大女優フェビエンヌを演じるドヌーヴの話。彼女は「真実」という小説を書いてこれまでの人生を明かす。その出版記念に娘(ジュリエット・ビノシュ)が夫(イーサン・ホーク)と娘を連れて帰ってくる。娘は小説の内容が嘘ばかりと怒り出し、母親の撮影現場での横暴ぶりにも腹を立てる。
小さな感情のいざこざが、あちこちにさらりとユーモアを交えて語られる。ちょうど『歩いても歩いても』のおかしさのようなもので、登場人物たちがだんだん愛おしくなってくる。
国際映画祭では、おおむね社会的な問題に正面から取り組んだ作品が受賞することが多い。この映画は監督が取材で語っていたように「秋のパリを描いた水彩画」という感じであえて軽く仕上げた作品なので、受賞は難しいかもしれないが、是枝監督の新しい大きなステップだと思う。
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