『ダンスウィズミー』に乗せられる
8月16日公開の『Dance with meダンスウィズミー 』を最終試写で見た。矢口史靖監督だが、見る時はなぜか周防正行監督のような気になっていた。どちらの監督の映画題名も楽しそうなのが多いし、作家性がありながらエンタメ志向。制作会社がアルタミラ・ピクチャーズということもあるか。
ところがこの2人の映画は決定的に違う。周防正行監督はいかにも映画向きの題材を見つけ、細部を凝らして見ごたえのある画面を作るが、矢口史靖監督は、およそ映画になりそうにないところから始めて、グイグイと映画にしてゆく。
今回の『ダンスウィズミー』も、最初はどうなるかと思った。冒頭に宝田明が歌って踊るシーンが出てくるが、かつてのテレビ番組のようだ。さすがに80歳を超す宝田はどこか痛々しい。
それから一流企業のOLたちの姿が写る。主人公の静香(三吉彩花)はなぜかみんなの憧れの先輩・村上(三浦貴大)に声をかけられる。一方、静香は田舎の姉から頼まれた娘と共に遊園地に行き、怪しげな「マーチン上田」(宝田明)に催眠術をかけられる。音楽がなるといつの間にか歌って踊り出すというもの。
そのせいで会社で村上とのプレゼン会議や彼とのディナーで踊り出してしまう。踊っている時は大盛り上がりだが、気がつくとすべてが壊れて台無しに。静香は催眠術を解いてもらうためにマーチン上田を探すが見つからず、探偵(ムロツヨシ)を雇う。上田は「コーチン名古屋」として新潟でショーをしていた。上田の元助手の千絵(やしろ優)と一緒になり、もう1人洋子も加わって新潟から北海道へと珍道中は続く。
ディナーでかかるのは山本リンダの「狙いうち」で、車内で静香と千絵が歌うのは井上陽水の「夢の中へ」、洋子も加わって3人で路上で歌って踊るのはキャンディーズの「年下の男の子」。月曜朝には会社に戻るという静香の約束は遠ざかる一方で、なぜか歌って踊って盛り上がりは続く。
もともとなぜ上田を追いかけるのかよくわからないし、話は無茶苦茶だけれど、歌って踊る静香を見ているとだんだんいい気持ちになってゆく。最後の札幌のショーで全員が「タイムマシンにお願い」を歌うと、最初は貧相に見えた宝田明が何とも素晴らしい存在に見えてくる。
この強引さ、いい加減さ、そして何とか盛り上げる演出力に、さすが矢口史靖監督だとうなった。チラシには「カラダが勝手にミュージカル♪?」と書かれているが、実は自分の大学の学生を見ていると少しわかる。いくつもダンス・サークルがあって、夕方にはいたるところでみんなが躍っているから。たぶん彼等にはこの映画はもっと響くかも。
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