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2019年8月 7日 (水)

あいちトリエンナーレのこと

あいちトリエンナーレで「表現の不自由展・その後」が開催後わずか3日で展示中止になったニュースを聞いた時、私が一番考えたのは美術関係の友人たち、とりわけ全国の学芸員が怒っているだろうな、ということだった。もちろん芸術監督の津田大介氏に対してである。

もし芸術監督が学芸員などの美術関係者だったならこの判断はしなかっただろう、と私は思う。抗議電話や行政や政治家からの圧力で、展示内容を変更することは認められない、というのが鉄則だから。

私は津田氏には面識はないが、最近はネット時代を論じる論客として知られていたと思う。少なくとも私の知る限り、美術や芸術についての発言はあまりなかったのではないか。だからあいちトリエンナーレの「芸術監督」に選ばれたと聞いた時、ちょっとびっくりした。

2010年にできたあいちトリエンナーレは、第一回の建畠晢氏を除くと、いわゆる美術関係者以外を芸術監督に選んできた。第2回は五十嵐太郎氏、第3回は港千尋氏である。それでも津田氏に比べたらアートとの接点はあった。五十嵐氏は建築史家であり、湊氏は写真家であり映像を論じる評論家だから。

だから津田氏の名前を聞いて大丈夫か、と思った。ところがこれにはカラクリがあって、あいちトリエンナーレは、芸術監督の下に若手のキュレーターのチームを置いている。今回に関してはチーフ・キュレーター1名に美術が3名、映像、舞台、音楽、教育に各1名。チーフ・キュレーターも美術畑なので、4名の美術関係者(うち3人の日本人はすべて学芸員経験者)が支えていることになる。

もし彼らに中止すべきか相談したら、絶対に了承しなかっただろう。中止の理由は、大村秀章・愛知県知事は「テロ予告や脅迫の電話などもあり、これ以上エスカレートすると(来場客が)安心して楽しくご覧になることが難しいと危惧している」と中止の理由を述べ、「『撤去をしなければガソリン携行缶を持ってお邪魔する』というファクスもあった」と言った。

 津田氏に「続ける選択肢もあったが、現場の複数の人から『もう無理だ』という声が上がっていた」。「ベテランの愛知県職員らが電話に応対したものの、待たされた人がオペレーターに激高するなど抗議が過熱したという。職員の個人名をインターネットにあげてさらす事例もあり、津田氏は『この光景を見て続けられないと思った』」

こんなことはよくあることで、警察にファックスの送り主を割り出させ、会場では手荷物検査をして警察による警備を強化すればいい。電話については、幸いに愛知芸術文化センターは直接学芸課や事務局に電話はできない仕組みなので、オペレーター部分を強化すればいい話だ。

長年美術展を中心にイベント屋をやってきた私には、今回の対応はずいぶん「職員にやさしい」内向きのものに見えた。そしてその代わりに払った代償は限りなく大きい。この件は昨日アップされた「論座」にくわしく書いたので、ご一読を。

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