« ベネチアからパリへ | トップページ | オルセー美術館のベルト・モリゾ展 »

2019年9月10日 (火)

ベネチアの快楽:その(9)そのほかの映画

ほかにも歴史ものは多かった。「領地」A herdadeは、ポルトガルのティエゴ・ゲデス監督の傑作で、ポルトガルの地方領主の戦後を描く。冒頭に1946年のシーンが出てきて、その次は1973年のサラザール政権崩壊の頃、そして1991年に移る。

少年時代の自殺した父を見たジョアンは、政府の圧力にも負けない強い領主として君臨していた。政府からは領地を取り上げようと使者が来るが、妻の父親が将軍のため、何とか免れる。そうしているうちに、カーネーション革命が起き、政府は崩壊する。ジョアンの小作人たちも立ち上がり、ジョアンは亡命を決意した妻の父母をかくまう。

1992年、ジョアンは経済的にも苦しくなっていた。ジョアンの息子は厳しく育てられたが、体が弱く逃げてばかりいた。娘は使用人の息子を好きになるが、実はその父親はジョアンだった。妻も去り、ジョアンの王国は崩壊してゆく。一つの家族を描くことで、ある国の歴史を重厚に語った力作である。これが賞を取らなかったのは残念。

ロウ・イエ監督の『サタデー・フィクション』は、1941年の上海を舞台にスパイたちの暗躍を描く。コン・リー演じる女優は1941年に香港から3年ぶりに上海に帰ってくる。彼女には演出家の恋人がいて、彼の芝居に出演するためだったが、彼女はフランス租界ともつながりがあった。日本の将校をオダギリジョーが演じ、最後はコン・リーと激しい銃撃戦を見せる。

ロウ・イエらしく長回しで遠くから人々をとらえるので、すぐには何が起こっているかわかりにくい。今回は白黒なのでよけいにそう感じる。しかしじっと見つめていると、暗い画面の奥にコン・リーを存在感たっぷりに捉えているのがわかる。

シーロ・ゲーラ監督の「夷狄を追いながら」は、コロンビア出身の監督がJ・M・クッツェーの同名小説をハリウッドで映画化したもの。辺境の町はマーク・ライアンス演じる治安判事が収めているが、そこにジョル大佐(ジョニー・デップ)がやってきて現地民への厳しい対応を求める。現地民への優しさを捨てられない判事は戦うが、大佐たちに処罰される。

文明と野蛮を皮肉たっぷりかつ残酷に描いた作品だが、場所はどこなのか、時代はいつなのかわからない。確かに20世紀前半でも現代でもアリなところが恐ろしい。

ロベール・ゲディギアン監督の「グロリア・ムンディ」は、マルセイユを舞台に老夫婦、子供夫妻を描く。老いた母を演じたアリアンヌ・アスカリッドが女優賞を得たのにはびっくり。現代社会の中で生きるのに精一杯の人々を描く演出はさすがだが、同じ監督の『キリマンジャロの雪』に比べると展開に無理があった。

さて、今回の私のベネチア映画祭報告は日経新聞の今日の夕刊に載るはず。一読ください。

|

« ベネチアからパリへ | トップページ | オルセー美術館のベルト・モリゾ展 »

「旅行・地域」カテゴリの記事

「映画」カテゴリの記事

コメント

コメントを書く



(ウェブ上には掲載しません)


コメントは記事投稿者が公開するまで表示されません。



« ベネチアからパリへ | トップページ | オルセー美術館のベルト・モリゾ展 »