公開初日に見る『宮本から君へ』
真利子哲也監督の『宮本から君へ』を公開初日に劇場で見た。実は先週のどこかの夕刊にベタ褒めの映画評が載ったので、既に公開中と勘違いしていた。最近はアメリカのメジャー映画に倣ってインディペンデント邦画まで金曜公開になったようだが、この種の客を選ぶ映画だと観客が少なくて初日らしくない気がする。
私はこの監督の『ディストラクション・ベイビーズ』を見て、その稀に見る暴力描写に震撼した記憶がある。意味のない暴力への衝動をこれほど描いた映画はなかった気がした。さて今度は熱血サラリーマンを主人公にした恋愛ものなので、どうなるかと興味を持った。
結果としては、やはり暴力描写がもっとも際立つ映画だった。ただし今回はその暴力にはっきりした理由がある。22歳の会社員の宮本(池松壮亮)は24歳のOL靖子(蒼井優)と恋に落ちる。しかし靖子には元カレの裕二(井浦新)がつきまとうし、取引先の部長(ピエール瀧!)のラグビー選手の息子に靖子を強姦されてしまう。
そこで宮本の怒りは頂点に達し、復讐を果たすという流れ。実は映画の冒頭は宮本が初めて靖子の家に行ってからの場面と、復讐する過程で左腕を吊って前歯が3本折れた状態の「事後」の姿が交互して出てくる。だから途中まではかなりわかりにくいが、だんだん2つが近づいて決闘を迎える。
部長の息子のマンションの非常階段での復讐シーンが凄まじい。既に宮本の顔は怒りではちきれそうだが、息子は容赦なく痛めつけ、前歯や指の骨を折る。本当に8階から落ちそうで見ていて怖いが、執念の宮本は相手の急所を突いて逆襲に出る。
テンションが高いのは宮本だけでなく、相手の靖子も怒ったり泣いたり凄まじい。自分の会社に現れた宮本を罵倒して追い出すし、復讐を果たした後の宮本を思いきり軽蔑する。考えてみたら、宮本がそれほど靖子を好きな理由はわからずじまいだし、それにも増して靖子が結婚する理由もピンと来ない。
つまりは恋愛を見せるのではなくて、激情のほとばしりを勢いたっぷりに描いた映画だった。その意味では『ディストラクション・ベイビーズ』に近い。蒼井優の泣き笑いや怒りの繰り返しには少し引いたが、井浦新のいいかげんな感じとかピエール瀧やその部下の会話などに妙に味があって、やはり魅力を感じる。
その意味では、『タロウのバカ』に続く今年の激情暴力型映画の系譜の注目すべき1本。
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