『プライベート・ウォー』のカッコよさ
マシュー・ハイネマン監督の『プライベート・ウォー』を劇場で見た。この監督のドキュメンタリー『ラッカは静かに虐殺されている』は見ていないが評価が高かったので、その劇映画に興味があった。華やかな印象のロザムンド・パイクが主演でどうなるだろうかと思った。
さすが、中東のドキュメンタリーを撮っているだけあって、劇映画でも紛争地域の現場の迫力はすごい。主人公が片目を失明することになるスリランカ内戦の取材も、イラクのクウェート人虐殺の現場も、シリアの戦闘地域も。
ロザムンド・パイク演じるメリー・コルヴァンは、2012年にシリア内戦の取材中に亡くなった実在のジャーナリスト。ロンドンの「サンデー・タイムス」の記者として戦闘地域を回る。左目を失ってからは、まるで海賊のような黒の眼帯をして、ロンドンの上司や戦場の米軍の指示を無視して突入する。
煙草をいつも口にくわえ、禁煙のレストランでも意に介さない。そんな男勝りの彼女だが、死んだときに恥ずかしいとの理由で高級下着を身につけて、かつての夫に言い寄られたり、気が合った男とベッドに行ったりもする。しかしながら孤独な日常ではストレスに悩まされてウォッカを飲み続け、まるでアルコール中毒患者のよう。
イラクで砂漠から死体がどんどん発掘されていき、遺族が集まって泣くシーンは強烈だし、終盤にシリアのホムスから上司に頼み込んでCNNの生放送に出演する場面は圧巻だ。「子供が死んだことを伝えて」と泣く母。悲劇が起きた人々の具体的な話に耳を傾けて、それを文章にして伝えてゆく。
これは批判ではないが、伝説のジャーナリストの話だけに、ある種の記者魂の理想化のようなものが感じられたのには、少し引いた。たぶんそれは私がかつて新聞社に勤務していて、過去の取材の自慢話をする記者を見過ぎているからかもしれない。
メリー・コルヴィンは56歳で亡くなったというが、それにあわせてロザムンド・パイクはちょっと老けた感じで出てくる。恋人と寝るシーンなどはあえておばさんのような体形を見せて、それが何ともよかった。それにしても私は、映画を見るまでメリー・コルヴィンという存在を知らなかったのだから恥ずかしい。自分にとって、中東はやはり知らないことだらけだ。
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