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2019年9月 5日 (木)

ベネチアの快楽:その(6)歴史もの

今年の映画祭の特徴は「家族」と書いたが、もう1つは「歴史」の読み直しではないか。まずロマン・ポランスキー監督の「私は弾劾する」J'accuseは19世紀末のフランスで起きたドレフュス事件を描く。「私は弾劾する」は、作家のエミール・ゾラが新聞に書いたドレフュス擁護の文章の題名だ。

この映画は冒頭にドレフュス大尉が大勢の軍人の前であらゆる称号を剥奪されるシーンから始まる。ところがその後はドレフェスが有罪になった過程に疑問を持ったピカール大佐が中心になる。彼は1人で調査を始めて、さまざまな試練を乗り越えてドレフェスの無実を証明する。

問題となるのは手紙や文書の偽造だが、それは映画では見えにくい。むしろドレフュスがユダヤ人だったことから起こるフランス人の反ユダヤ主義や、いったん有罪と決まったらそれを掘り返すことを嫌う官僚主義だ。

裁判のシーンが多すぎる気もするが、終盤にピカールが作家のゾラたちと一緒になって作戦を練り、ゾラが「ロロール(オーロラ)」紙に「私は弾劾する」を発表するあたりは感動的だ。脇役にもフランスのコメディ・フランセーズ出身の有名俳優を揃え、19世紀末の壮大なセットを作り、迫力満点の映像になった。

ちなみに監督のポランスキーはイタリアに入国すると米国に引き渡されるので、ベネチアに来ることができなかった。彼は米国で逮捕されており、イタリアは米国と犯人引き渡しの条約を結んでいるからだが、とても現代社会とは思えない話だ。

同じフランスのオリヴィエ・アサイヤス監督の「Waspネットワーク」は、1990年代のアメリカだから最近の話だ。しかしその視点は明らかに知られざる現代史の発掘。1990年代のキューバでは米国への亡命者が多く、彼らはマイアミに住んで祖国を民主化する運動をしていた。

中心となるのはパイロットの5人。そのうちの1人はガエル・ガルシア・ベルナルで、5人の妻の一人はペネロペ・クルスが演じる。彼らはキューバに反旗を翻しているが、FBIはキューバのスパイとして尾行を続けていた。そしてある時みんな逮捕されてしまう。

この監督は『カルロス』や『5月の後』など体制に反対した人々を描いてきたが、今回もその路線。ポイントは、戦っているうちに本当に主人公たちが正しいのかわからなくなるという点だ。登場人物が多すぎてストーリーを追いかけるのは難しいが、見ごたえは十分にあった。

 

 

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