ベネチアの快楽:その(3)家族映画
さて、忘れないうちにコンペ作品について見たものから書いておきたい。コンペは『真実』も初めとして、前半に家族ものが並んだ。まずノア・バームバック監督の『マリッジ・ストーリー』は結婚が破綻した若い夫婦の話。舞台演出家の夫(アダム・ドライバー)と女優(スカーレット・ヨハンソン)の夫婦は、ある時から少しずつ関係にずれが生じ始める。
私は実はこの監督がどこか苦手だ。アメリカの都会の饒舌でドジなインテリたちを描くのはウディ・アレンを思わせるが、いつも演出の作為が目立ってしまう。
しかし今回は離婚というシリアスな話だったのがうまくいった感じか。最初にお互いが相手をナレーションで語る出だしは軽快だし、後半に2人が部屋の中で本当に大声でどなり合うところは、相当にリアル。妻の弁護士役のローラ・ダーンも抜群におかしい。
本当は好き合っていても、「離婚」という言葉が入ると、自然にすべてが壊れる方向に流れ出し、止められなくなる。そんな現代人の日常をうまく映画にしていた。これはネットフリックスの製作。
イタリアのマリオ・マルトーネ監督の「リオーネ・サニタの市長」は、ナポリの地元のボスを描いたスーパーリアリズム作品。これまた『マリッジ・ストーリー』に似て、とにかくみんながしゃべり、どなり合う。こちらはそれがナポリ弁でまるでラップのようだ。ほとんどの会話にイタリア語字幕が付く。
ドン・アントニオと呼ばれる(ナポリ弁では「ドナンド」と聞こえる)親分は、近所の人々に慕われてあらゆる問題を解決する。怪我人や病人が出ても、友人の医者の「ドクター」に頼めば大丈夫。ある時、パン屋の父子の諍いに双方から相談されて、事件に巻き込まれる。もともとは芝居の映画化だが、見ていると何が正しいのかさっぱりわからなくなってしまうような、シュールに傾いた強い毒を持つ。
ジェームズ・グレイ監督の『アド・アストラ』は、宇宙飛行士のロイ・マクブライド(ブラッド・ピット)が20年前に宇宙で行方不明になった父親(トミー・リー・ジョーンズ)を探しに行く近未来を描いた映画。壮大な月や火星や金星の様子は実にうまく作られているが、息子が父を話すということ以外は、話があちこちで破綻しているように思えた。
そもそもなぜ父親が宇宙開発会社にとって困った存在なのか、会社はなぜ息子を使って探し出そうとするのかが今ひとつピンと来ない。とうとう父親が現れても、双方が何を考えているのかわかりにく。そしてなぜ息子は1人で地球に帰ることができたのかも謎である。
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