ほかにパリで見たもの
もう帰国したが、「ベルト・モリゾ展」以外にパリで見たものを忘れないうちに書く。定宿のホテル近くの映画館で、レベッカ・ズロトヴスキ監督の「簡単な娘」Une fille facileを見た。カンヌに住む16歳のナイマの夏休みを描いたもので、フランス映画の一ジャンルであるバカンスもの。彼女のもとにはいとこで23歳のソフィアがやってくる。彼女は抜群のプロポーションで、年上の男たちを誘惑する。
ある時、大きなボートを持つ金持ち2人組に誘われて、ボートに泊まる。ソフィアはそのうちのアンドレと寝るが、ナイマはもう1人のフィリップに惹かれてもその気にはなれない。同級生の恋人のことを考えている。題名の「簡単な娘」とはソフィアのことで、簡単に寝る娘のことだろう。
夏が終わり、いつの間にかソフィアはいなくなる。ナイマは9月から料理学校に通い出す。そして恋人と再会する。それだけの話だが、1日に1本だけ見ると、これがなかなかいい味を出している小品に見える。映画祭で1日に3本も映画を見るのはよくないと痛感。1980年生まれのこの監督は、フランス映画祭で「美しき棘」(2010)がなかなかだったが、公開された『プラネタリウム』(16)は未見。
パリでは帰国の日にもう1本見た。セドリック・カーン監督の「家族の集まり」Fete de familleで、是枝裕和監督の『真実』の別バージョンのような映画だった。カトリーヌ・ドヌーヴ演じるアンドレアの誕生日に、子供や孫が集まる。アンドレアは『真実』のようなパリの大女優ではなく、田舎に生きるお母さん役だが、庭のある一戸建てですべてを仕切っているのは同じ。
監督自身が演じる長男のヴァンサンは唯一まともで、奥さんと子供と来る。映画監督志望の次男のロマン(ヴァンサン・マケーニュ)は、恋人と来ているが、「家族」を撮ると言ってどこでもカメラを回す。もっと困ったのは、アメリカに突然3年間行ってしまった一番年上のクレール(エマニュエル・ベルコ)が帰ってきたことで、アンドレアが預かったその娘は怒り出す。
『真実』は、大女優の母とそれに耐えきれずアメリカに行った娘との確執を描いたが、どちらもアメリカ帰りの娘という点では同じ。自分を中心に世界が回っているようなドヌーヴ演じる母も。「家族の集まり」のポイントは、娘クレールが精神的に病んでいることで、エマニュエル・ベルコの演技がすさまじい。
さらにクレールと通じ合うロマンも抜群におかしい。恋人とのやり取りに爆笑するし、実はこの半年はロマンがクレールを匿っていたというオチもさもありなん。まるでルノワールの『ゲームの規則』のような、見事に統御されたドタバタ劇。
「家族の集まり」はカンヌにもベネチアにも落ちたらしいが、かなりのレベルの映画なのでベネチアのコンペに出ていたら『真実』との比較が話題になっただろう。
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