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2019年10月25日 (金)

『幸福路のチー』の懐かしさ

11月29日公開の台湾初の長編アニメーション『幸福路のチー』を見て驚いた。40歳前後の女性が、これまでの自分の生き方を振り返るアニメがこれまでにあっただろうか。それも自分の国の歴史と結ぶつけ、そして数々の夢や幻想や妄想とともに回想が展開するとは。

チーと呼ばれる主人公のリン・スー・チーは、30代後半になって住んでいたアメリカから故郷の台湾に帰ってくる。祖母が亡くなったからだ。生まれた町の幸福路に帰ってきたチーは、その変貌に驚く。最初は同級生に会っても気づかないが、次第にかつての日々を思い出す。

この映画では、3つの時が並行して進む。台湾に戻った今のチー、生まれた頃からの記憶、その記憶の奥にある夢や妄想。それらが渾然一体となって、見ている者はだんだんと身につまされてくるのを感じる。

両親と幸福路に引っ越し、小学校に通い出す。そこで仲良くなったのは金髪で青い目のベティ。アメリカ人の父親は不在で、母が働きながら育てている。腕白な男の子と3人で木に登り、歌を歌う。

チーが大好きだったのは花蓮に住む祖母。アミ族の出身で、変なお祈りをしたり薬を作ったりして周りからは野蛮人と言われるが、愛情豊かな人物だった。両親はチーが医者になることを望むが、彼女は文学や哲学を勉強したいと主張し、祖母はそれを支持する。

大学を出たチーは新聞社に職を得て、ひたすら忙しい日々を送る。数年たっていとこの誘いで渡米し、働き始める。そこで優しいトニーに出会って結婚するが、数年たつと違和感を感じ始める。チーは故郷で考える。これまでの生き方でよかったのか、これからはどうすべきか。夫は何度か電話をかけてきて、とうとう台湾までやってくるが。

もちろん『天気の子』や『トイ・ストーリー4』を見た目からしたら、作画は拍子が抜けるほどつたない。まるで4コマ漫画が続いているように単純なのだが、そこにちょっとオブラートがかかったような色彩の風景が広がり、記憶や夢が展開し始めると、妙にストンと落ちてゆく。

日本人にとっては、「幸福学生服」とか「永遠的朋友」とか看板や手紙など、文字の漢字がわかるのもいい。かつて台湾のホウ・シャオシェン監督の『恋々風塵』や『フンクイの少年』を見て、胸が締め付けられるような懐かしさを覚えたが、このアニメではその感じが味わえる。これは現代の日本女性に強く訴えるのではないか。

監督のソン・シンインは1974年の台湾生まれで日本や米国で学んだ女性で、今回が初長編という。現在は実写映画を制作中というから楽しみだ。

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