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2019年10月21日 (月)

『楽園』の既視感

瀬々敬久監督の『楽園』を見た。このピンク映画出身の監督は『ヘヴンズ ストーリー』(2010)が衝撃的だったが、その頃からメジャーになって年に2、3本作る多作監督になった。そして、そのどれもがなかなかの出来。

今回の『楽園』は、先週金曜日の夕刊各紙では大絶賛だったが、個人的にはむしろこの監督としては低調ではないかと思ったくらい。映像の力というか、すばらしい撮影と効果的な音楽でグイグイ迫ってくるのに、中身が詰まっていない感じか。

基本的には3人の物語が同時進行する。1つは外国人の母を持つ豪士(綾野剛)が12年前の少女殺しの犯人として疑われる話。殺された愛華の親友で殺される直前まで一緒にいた紡(杉咲花)は、今は東京で勤めながらも罪の意識に駆られているというのが2つ目の物語。もう1つは、妻を亡くして近くに移住してきた善次郎(佐藤浩市)が村人とこじれて村八分になる話。

問題はこの3つの物語が重ならないことで、とりわけ善次郎が豪士と全く関わらないのがピンと来ない。豪士は紬を助けはするがそれだけで、それ以上には絡まない。後半は3人の物語を交互に見せられるので一挙に結びついて解決に向かうかと期待するが、豪士も善次郎も悲惨な死を迎え、その理由もいまひとつはっきりしない。

殺された愛華の犯人を恨む祖父役の柄本明やその妻の根岸季衣、紡を追いかけまわす青年役の村上虹郎、区長役の品川徹など周囲を芸達者が固め、田舎の闇の感じはよく出ている。何より少女2人が分かれるY字型の道を始めとして、村の情景が美しくかつ不気味だ。しかしそれゆえに雰囲気だけに終わった感もあった。

たまたま予告編で11月1日公開の『閉鎖病棟』があった。ここでも綾野剛が暗い過去のある男を同じような顔つきで演じていた。11月8日公開の『ひとよ』は15年前の過去が家族を苦しめる話。何だか田舎の闇と過去にもがく映画が多すぎはしないか。去年の『羊の木』とか『友罪』、今年だと『半世界』、『凪待ち』、『夜明け』などなど。

『楽園』を見ながら乗れなかったのは、既視感が強すぎたこともあるかもしれない。こうした日本式思い入れの強いアート作品は、海外ではあまり評価されないように思う。

 

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