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2019年10月10日 (木)

『ひとよ』の田中裕子の強さ

11月8日公開の白石和彌監督『ひとよ』を見た。この監督は『凶悪』(2013)で有名になってから精力的に活躍しており、今年だけでもふざけまくった『麻雀放浪記2020』、香取慎吾が徹底的にダメ男をやる『凪待ち』があった。さて今回はどう来るかと思ったが、久しぶりのシリアス路線。

田中裕子がかつて夫を殺して刑務所にいた母を演じる、という設定だけで私は見たくなった。我々の世代にとって田中裕子はNHK「おしん」の人だが、我慢を教えるこの番組は私は嫌だった。田中裕子は『北斎漫画』や『天城越え』などの映画の役の方が好きだった。時々小さな胸を見せるのも、若い私には嬉しかった。

最近はあまり映画で見ないと思っていたら、久しぶりに主役で出てきた。それも夫を殺して刑務所に行き、成人した3人の子供のもとに15年ぶりに帰ってくるという強烈な役である。映画は2004年から始まる。

顔や体に生傷のある子供3人が雨の日の夜、両親を待っている。そこにネクタイをしたタクシー運転手の母・こはるが帰ってくる。そして「お父さんを殺しました」とつぶやく。その何気ないような言葉にこもった力に、私は大きく揺らいだ。あの田中裕子が年を取り、男っぽい姿でこういう言葉を吐くとは。

それから15年がたち、子供たちはそれなりの暮らしをしている。両親のタクシー会社は親戚が引継ぎ、長男の大樹(鈴木亮平)は結婚して妻の家が経営する電気店で働き、園子(松岡茉優)はスナック勤務、雄二(佐藤健)は東京の雑誌社でライターをしている。母が帰ってきたと聞いて雄二も帰ってくる。

タクシー会社の人々はこはるの帰りを温かく迎えるが、「殺人者の子供」だった3人は複雑な思いだ。そのうえ大樹は妻子と別居中で自宅に帰っていた。東京で小説家をめざしながらエロ雑誌のライターをしていた雄二は、ある行為に出てしまう。

15年間胸に秘めた「過去の秘密」が蘇り、母も3人の子供も苦しみ、罵り合う。しかし母役の田中裕子の白髪の優しい表情と動作にすべては和らいでゆく。

あえて言えば大樹の妻とのやりとりや元ヤクザのタクシー運転手(佐々木蔵之介)の息子をめぐる部分など、いささか盛り込み過ぎかもしれない。もう少しシンプルでも、田中裕子の力で十分に引っ張れたのではないか。

田中裕子以外では、私は園子役の松岡茉優の存在が全体を和らげる感じでうまく機能したと思った。大樹も雄二も問題が多すぎだったから。いずれにしても、今年後半の話題作である。

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