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2019年10月 5日 (土)

『少女は夜明けに夢を見る』の少女たちの表情

11月2日公開のイラン映画『少女は夜明けに夢を見る』を見た。メヘルダード・オスコウイ監督がイランの少女更生施設を撮った76分のドキュメンタリーだが、強い印象を残す。何といっても、そこにいる少女たちの顔つきや佇まいがいい。

彼女たちは、みんな黒いベールで髪や首を覆い、化粧も刺青もなく、ごく普通の女の子に見える。冒頭の雪合戦のシーンなどは、どこかの公園のようだ。

ところが口を開くと、性的虐待にあったり、薬物中毒だったり、強盗をしたり、人を殺したりしてこの施設にいることがだんだんわかってくる。父親が薬物中毒だったり、母親が暴力を振るったり、兄が刑務所にいたりという家庭環境の娘ばかり。

ただみんな素直に、自分のことを話す。一番心に残るのは、甘えん坊のような顔の女の子、ハーテレ。叔父による性的虐待で入所してきたが、自分を信じてくれなかった母のもとに帰りたくないと言う。話す時には、にかむように下を見る。

最初は家に連絡しないでと言っていたが、ある日実際に電話をすると電話口に出て姉と話し、涙を流す。結局家族が迎えに来るが、その時の嬉しそうな表情といったら。

「名なし」と名乗る少女は明るく人懐っこい笑みが印象的だ。強盗、売春、薬物使用で施設に入れられているが、12歳の時に叔父に性的虐待を受けて家を出ていた。監督が16歳の娘の話をすると「聞きたくなかった。私はゴミの中で育てられ、その子は愛情を受けたなんて」。彼女も出所が決まるが、絶望を口にする。

ほかにも出所を喜ばない少女が一人。また母や兄と一緒にに父親を殺したという女の子は、ずいぶん大人びてクールな感じで印象に残った。彼女たちは2段ベッドの並ぶ大きな部屋で50人ほどが寝ている。赤ん坊もいれば、子供もいる。食事のシーンものんびりだし、新年のお祝いもあって、全体に施設らしくない日常が広がっている。

新年の祝宴の席で、施設の男性に質問をする女の子たち。「なぜ女性の方が男性より罪が重いの?」「父親が子供を殺すより、子供が父親を殺す方が罪が重いのはなぜ?」。真剣な表情の彼女たちに、答えはない。

イラン映画というと、規制や宗教的なタブーの多い特殊な社会を描く作品がほとんどだったが、この映画はある意味では世界共通の話題を取り上げている。日本の施設よりよほど自由ではないかとさえ思える。撮影許可に7年もかかったとプレス資料に書いてあったが、日本でもこういう施設の中を描くドキュメンタリーは少ない。

監督の強い熱量が画面から伝わってくる。あの女の子たちの表情は、もう一度見たい。

 

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