『この世を生き切る醍醐味』のおもしろさ
本屋に行くと樹木希林の本がたくさん出ていてちょっとうんざりだが、『この世を生き切る醍醐味』だけは読んだ。「朝日」の石飛徳樹記者のインタビューをまとめたもので、もちろん連載時に主要なところは読んでいた。ところが今回読んでみて、意外なおもしろさに気がついた。
それは石飛記者との掛け合いの部分で、彼が同時代的に「悠木千帆」時代のテレビ番組をしっかり見ていたゆえに盛り上がる。「寺内貫太郎一家」で「それこそドリフのコントのように障子が外れたり、家の中がメチャクチャになっていました」と彼が言うと、「(西城)秀樹君が骨折したもんだから、そこでカットしてね。でも次のカットではね、腕にギプスを巻かれて、首から吊ってんのよ、同じシーンなのにね」
「翌日、学校に行って話すんですよ」「そうよねぇ、で、真似してみる」「…真似をするといえば、何と言っても「ジュリー~~!」ですよね…」「「あのジュリー~~」というのもね、ただ「ジュリー~~」ってやってるだけじゃないのよ。ポスターのジュリーがバアさんの話相手みたいな感じでね、うれしい時とか、悲しい時とかね、感情によって使い分けているのよ…」「そうそうそう。違うんですよね、続けて何話か見るとわかるんですよ」
こんな感じで樹木希林さんがどんどん盛り上がって、これまで言わなかったことを言う。「あれは台本に書いてあるんですか」「ないの。ここらへんで入れようかって、現場で決めているの。台本には書いてないんですよ」。これには驚いた。
これ以上書いても「ジュリー~~」がわからない人にはおもしろくないだろうから、別のことを書く。私が一番いいなと思ったのは彼女が賞をもらう時の話で、「今は、何をいただいても「さいですか、恐れ入ります」ってなもんでね。私ね、「さいですか」っていう言葉が大好きなのよ…」「「さいですか」、響きがいいですねえ、役者さんの中には賞が欲しい人は大勢いますよね」
「ただね、困るのはトロフィーなのよ。賞状はね、重ねて丸めておけばいいんだけど、映画の場合はトロフィーをいただくのよ。…ましてがんで、いつでも死ぬ状態にあるとすれば、「重たいし、場所取るし、遺された人が困っちゃうだろうな」という思いよね」
「そしたら、ある日、知り合いの家に行くとね、ブロンズ像が置いてあってね、それが電気スタンドになっているのよ。…というわけで、だいぶトロフィーを電気スタンドにして、もらっていただきました」「電気スタンドですかあ」「うん、今の家にあるのは3~4個くらいから。あとのはみんな差し上げました。でもね、どうにもならないのが、日本アカデミー賞のトロフィーなのよ」「わはは」「トロフィーを電気スタンドに改造するのにさ、一個3万円かかるんですよ」
このノリノリの樹木希林さんは、新聞の連載では見られなかった。それにしても、「賞」に「さいですか」と言ってみたいものだ。
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コメント
樹木希林さんの死後に刊行された書籍を全部読んだ友人は、「この世を生き切る醍醐味」がいちばん面白いと言っています。テレビ芸能史としても読みごたえがありますし、樹木さんの「芸能」への思い、姿勢が伝わってきます。
投稿: 高木希世江 | 2019年10月18日 (金) 12時52分