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2019年10月19日 (土)

30年目の山形:その(4)

もう山形から帰って1週間近いし、木曜には賞も発表されたのだが、まだ触れていない数作品についてメモ程度に書いておく。大賞のワン・ビン監督『死霊魂』と優秀賞の『ミッドナイト・トラベラー』については既に書いたが、ほかの受賞作は見ていない。個人的に受賞するかなと思ったのは、『誰が撃ったか考えて見たか?』

監督のトラヴィス・ウィルカーソンは、アメリカ生まれでこれまでも『殊勲十字軍』などが山形で上映されているが、私は見ていない。この作品は自分の曽祖父S・E・ブランチが1946年に黒人を射殺して無実だった事件を追いかけたもの。だから親戚をたぐって話を聞いていくという生々しい展開になる。

曽祖父はアラバマ州ドーサンでブランチ食料品店を経営しており、諍いで黒人のビル・スパンを殺すが、保安官と仲が良く無罪になる。そのことは家族や親戚では触れない話となり、親戚には今も差別主義者がいる。結局のところ真実はわからないが、限りなくクロに近い証言が集まる。

映画はあちこちを車で回る様子を見せるが、途中から車がつけられていることに気がつく。映画を撮ることが、自らを危うくする感じは見ていて怖い。この映画の最後に「父に捧ぐ」と出たが、父もこの問題に気づいてたのだろうか。

韓国のノ・ヨンソン監督の『ユキコ』は、日本人だった祖母を追いかけたもの。祖母は戦時中に朝鮮人の恋人を追ってソウルにやってきたが、その後日本に帰って晩年は沖縄で暮らしている。母は一度祖母に会うために沖縄を訪ねている。2人の跡を追う監督の映像は静かで詩的なものだが、インパクトには欠ける。

『約束の地で』は、フランスのクローディア・マルシャル監督が、ボスニアからフランスに移り住んだメディナとその家族を描く。14年前に「約束の地」フランスに難民として入国したが、あいかわらずまともな仕事に就けず、お金もない。『ミッドナイト・トラベラー』は欧州にたどり着くまでの3年間を描いたが、こちらは着いた後の幻滅が写る。状況はよく伝わるが、映像に驚きや緊張感がない。

そういえば、フレデリック・ワイズマンの『インディアナ州モンロヴィア』は審査員特別賞だったが、これは昨年のベネチアで見ていた。この監督は1本前の『ニューヨーク公共図書館』もそうだが、最近はアメリカを実に優しく描く。『大学』や『ニューヨーク、ジャクソンハイツへようこそ』のような強い批判精神は薄くなったようだ。

 

 

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