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2019年11月11日 (月)

『こんな雨の日に』を読みながら

是枝裕和著『こんな雨の日に』を読んだ。「映画「真実」をめぐるいくつかのこと」という副題で、公開中の日仏合作映画『真実』の製作過程をつづった本だ。日本側のプロデューサーである福間美由紀さんからいただいたものだが、彼女の文章も途中に「伴走」として挟まれている。

私はこの映画がオープニングに選ばれた今年のベネチアの記者会見で、ジュリエット・ビノシュが10年ほど前から企画が始まっていたと言うのを聞いて驚いた記憶がある。この本はその過程を監督自身が綴った日記のようなものだ。

「こんな雨の日に」という題は、もともと2003年にパルコ劇場で上演すべく準備していた演劇の脚本の題名で、老女優の話という。「「こんな雨の日にお芝居観にくる人なんているのかしら」と楽屋で主人公が呟く、その台詞をタイトルにした」

映画『真実』は、70代の大女優ファビエンヌの日々を描く。だからこの映画は15年以上前から始まっていたことになる。彼の前の本『映画を撮りながら考えたこと』と同じく、いろいろ考えさせる本だ。

まず驚いたのは、映画を準備しながらものすごい数の映画を見ていること。カトリーヌ・ドヌーヴと最初に会う時には、その3週間前から彼女の出演作を見ている。『三度目の殺人』のために、ヴェネチア、トロント、サン・セバスチャンの映画祭を回りながら、飛行機やホテルで見る。この本に載っているだけでもタイトルは20本ほど。

実はその後も俳優と会ったり、撮影監督と会ったりするたびにこの「予習」は続く。撮影が始まっても時間があると、ホテルで映画を見る。たぶん再生できるパソコンと何十本ものDVDと共に移動しているのだろう。撮影のために彼が見る映画の題を知るだけでもこの本を読む価値がある。

次に思ったのは、3、4本の映画を次々に同時進行させていることだ。2017年夏に『三度目の殺人』で海外の映画祭を回りながら、2019年の『真実』の具体的な準備を始め、10月には東京に戻って『万引き家族』の脚本を完成させる。11月にパリに戻り、『真実』の脚本の初稿を書く。そして東京で『万引き家族』の撮影、編集と進行して2018年3月にまたパリ。

『三度目の殺人』のパリプレミアに立ち会って、ドヌーヴ、ビノシュ以外の役やカメラマンを決めながら、また東京に戻って『万引き家族』を仕上げてカンヌへ。映画祭期間中にもパリで『真実』の準備。そしてカンヌで最高賞を取ると、ニューヨークで『真実』のイーサン・ホークの交渉。

よくこんな芸当ができると思う。それも読んでいる限りは実に楽しそうにさえ見える。もっと書くことはあるが、今日はここまで。

 

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