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2019年11月25日 (月)

「コートルード美術館展」を楽しむ

ここに何度か書いたように、海外の1つの美術館からそのコレクションを借りてくる「〇〇美術館展」は好きではない。だいたい有名な作品が1、2点であとは普段は倉庫に保管されているような地味な小品が脈絡もなく並ぶことが多いから。上野の東京都美術館で12月15日まで開催中の「コートルード美術館展」も、あまり気が乗らなかった。

ところが銀座で2時間強時間を潰す必要ができて、見たい映画には少し時間が合わず、上野でこの展覧会を見ることにした。ポスターに使われているマネ作《フォリー=ベルジェールのバー》の、絵の半分以上が鏡という構造も気になっていた。

コートルード美術館展は20年ほど前に高島屋などで巡回したが、見ていない。デパートでやるくらいだからたいしたことないかと思っていたが、今回の展覧会を見るとかなりレベルの高い作品が揃っていた。この美術館はロンドンにあるが、今回の展示はフランス絵画しかない。それも印象派とポスト印象派のみ。

今回はこの美術館が改装のため閉鎖されるということで、目玉作品が揃ったようだ。確かに見始めると、思わず「これは、これは」と声が出そうなくらい一級品が並んでいる。セザンヌは《カード遊びをする人》や《大きな松のあるサント=ヴィクトワール山》などの有名作を含む10点で、これらを見るためだけにも行く価値がある。

展覧会の始まりは「画家の言葉から読み解く」と題して、ゴッホやモネやセザンヌと共に、画家の手紙が紹介されている。ほかにもコレクターであるコートルードの手紙や購入の領収書や当時の雑誌も展示されており、真面目な取り組みを感じさせる。

展示壁にもかつてのコートルード家で絵が展示されている写真があちこちにあったり、有名な絵は隣にパネルに拡大して細部の詳細な解説が書かれていたり。展示作品は全体で60点だから多くはないが、こうした「教育」的な補足は悪くない。

マネの《フォリー=ベルジェールのバー》も解説を読めばその異様さが浮かび上がる。鏡に映るバーの売り子の後ろ姿は確かに位置がおかしい。そして正面を向くこの女性は、とても客の相手をしている感じではない。鏡と異なる実像はまるでドッペルゲンガー。

この絵の下の方にある鏡の枠は、ピエール=オーギュスト・ルノワールの《桟敷席》にも通じる。絵画という木枠の中の枠構造。左手前に座敷の木の手すりがあるが、女性の後ろにいて双眼鏡を手にする男性も似た格好でまたドッペルゲンガーのようだ。そもそも「桟敷席」の客を絵の対象にするとは。

そういうわけで、同じ上野のかなり危うい「ゴッホ展」(これについては後日書く)に比べると、良心的な展覧会だった。

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