それでも東京国際映画祭に行く:その(6)
受賞結果が出て、なんとなく唖然として残りの作品について書くのを忘れていた。この「唖然」は、グランプリのデンマーク映画『わたしの叔父さん』がつまらなかったからではない。それなりにおもしろかったが、なぜフィリピン映画『マニャニータ』が取らなかったのかと思った。
去年はラヴ・ディアスが審査委員長だったから『アマンダ』のような秀作がグランプリになったが、例年のグランプリはおおむね中くらいの映画だ。なぜそうなるかと言うと、理由は簡単でコンペの審査員がヘンだから。いつも国際映画祭とはあまり関係のないアメリカのプロデューサーや監督がいる。審査員はコンペのセレクション以上におかしいと思う。
フラレ・ペーダセン監督『わたしの叔父さん』は両親を亡くして叔父に育てられた20代の女性クリスが、酪農を手伝いながら叔父の世話をするさまを描く。獣医学を学びたい彼女は獣医師ヨハネスのアシスタントをしたり、出会った若者のクリスに誘われたりするが、結局は叔父のことが心配で家を離れられない。小さな世界の退屈な日常に起きる変化を繊細に描いた佳作ではあるが。
映画祭終盤に見た2本は、正直なところ何を言いたい映画なのか、なぜコンペに選んだのかわからなかった。フランスのオーレリアン・ヴェルネール=レルミジオー監督の『戦場を探す旅』は19世紀半ばのメキシコとフランスの戦場を追いかける報道カメラマンを描く。カメラマンは悲惨な場面を目にするが、結局戦場の写真を撮ることはなかった。だから何なのか、私にはピンとこなかった。
ノルウェーのヨールン・ミクレブスト・シーボシェン監督『ディスコ』は、ダンスに身を捧げる若い女性を描く。宗教家の義父に悩み、もう1つの宗派に流れる。これは本当に何なのか、謎の映画だった。
2本の日本映画も、なぜこれが選ばれたのか私にはわからなかった。『愛妻物語』は売れない脚本家が取材のために妻と娘を連れて高松に行く話。取材はうまくいかず、決まっていた映画化の話もつぶれたという連絡が来る。徹底的に妻に馬鹿にされながらも愛し続ける男の滑稽な純愛物語。脚本家・足立伸の初監督映画だが、明らかに脚本で見せる作品。こういう映画もあっていいが、コンペに選ぶとは。
『手塚眞監督『ばるぼら』は映画以前の問題。昔、池田満寿夫のような画家や小説家が映画を撮った時代があったが、そういう感じの雰囲気と見せかけだけの薄っぺらい映画。その意味でこの漫画が描かれた70年代の雰囲気が出ているのは事実だが。
今年の東京国際映画祭全般について、朝日新聞デジタル「論座」に書いた文章が昨晩アップされた。今回はなぜか全文無料で読めるのでご一読を。
| 固定リンク
「映画」カテゴリの記事
- 少しだけ東京国際:その(5)(2024.11.06)
- 少しだけ東京国際:その(4)(2024.11.05)
- 少しだけ東京国際:その(3)(2024.11.04)
- 少しだけ東京国際:その(2)(2024.11.03)
- 少しだけ東京国際:その(1)(2024.10.30)
コメント
昨年の審査員長はブリランテ・メンドーサです。広告出身のメンドーサらしい選出でした。
ラブ・ディアスが引き受けたらもっと良かったかもしれませんね。
投稿: | 2019年11月14日 (木) 21時47分