『アイリッシュマン』に痺れる
ネットフリックス製作のマーチン・スコセッシ監督『アイリッシュマン』を劇場で見た。最初はアップリンク吉祥寺で見ようと思っていたが、3時間半のせいか特別料金2000円と高い。シネリーブル池袋だと会員料金で1100円だとわかり、そちらにした。映画の入場料がこんなに違うのも珍しい。
見てみると、『アイリッシュマン』は2000円払っても惜しくない、痺れる映画だった。トラックの運転手でありながら裏仕事で人殺しをしたフランク(ロバート・デニーロ)の生涯を、老いた本人のナレーションでえんえんと展開してゆく。
冒頭、カメラは老人介護施設にいる老いたフランクを映し出す。フランクは頼りにしていた裏社会のボス、イタリア系のラッセル(ジョー・ペシ)との10年ほど前の夫婦帯同の旅行を思い出し、さらに20年以上前にさかのぼる。
トラックが故障とした時にラッセルと出会い、それからだんだん裏仕事として殺人を請け負う。フィラデルフィアのマフィアのボス、ブルーノ(ハーヴェイ・カイテル)やトラック運転手組合会長のジミー・ホッファー(アル・パチーノ)を紹介されて友情を結ぶ。しかしジミーには敵が多く、彼は投獄に追い込まれる。
ほかにも何十人もの怪しげな男たちが出てくるが、多くは出てきた時に死んだ日や死因が文字で出てくる。まるで『仁義なき戦い』のようだ。それぞれのエピソードが妙におかしいが、次にはつながらない。大きなアクションシーンはほとんどなく、男たちが出てきては喧嘩をして消えてゆく。このとりとめのなさは、確かにネットフリックスでないと難しいかもしれない。
デ・ニーロは50代から80代までを演じる。終盤の施設に入ってからのシーンが泣けてくる。車椅子を引いてもらって自分の棺桶や墓を買いに行ったり、銀行に勤める娘ペギーに会いに行って断られたり。彼は言う。「年を取らないと時間がこんなに早く過ぎるに気がつかない」。デ・ニーロの『タクシー・ドライバー』や『カジノ』を思い出す。
デ・ニーロに比べるとアル・パチーノは若い頃もかなり老けている感じ。それでも怒ると大声を出して怒鳴り続け、嬉しいと子供のように喜ぶ姿は見ていて楽しい。特にフランクの娘ペギーとアイスクリームを食べる姿は最高だ。アル・パチーノと言えば、やはり『ゴッド・ファーザー』。
だんだん終わるのが惜しくなったところで映画は終わる。デ・ニーロは施設で部屋から出てゆく人(カメラ)に「戸は少し開けといてくれ」と頼む。スコセッシの遺書のような映画だった。ネットフリックスに入会してもう一度見ようかな。
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