ウェルベック『セロトニン』に焦る
フランスの小説家、ミシェル・ウェルベックの最新作『セロトニン』を読んだ。彼の小説は『素粒子』の映画化作品をドイツ映画祭で上映した時から読んでいるが、シャルリー・エブド編集部襲撃事件の日に出た『服従』が好きだった。
『服従』はテロを予言した本として日本でも話題になった。フランスがアラブ社会に飲み込まれて、主人公の大学教授も仕事のためにイスラム教を受け入れる内容だったが、私には大学教授の「服従」の姿勢が自分のことのように思えた。
今回はどうなるかと思ったが、主人公フロラン=クロードは40代の農業研究者で、かつては悪名高き米企業の「モンサント」に勤め、現在は農業食糧庁の調査を請け負っている。最初は日本人の20代の女性パートナー、ユズと別れるシーンで始まるからびっくり。
「ユズのセックス技術は高レベルだった、特に肝要なフェラチオにおいて」「ぼくは飛行機で旅行する間何度も彼女の驚くべきしごきを堪能した」「彼女はアナルの分野にも例外的にすぐれていた」
しかし、ある日パリのアパートで主人公はフランスには年に1万2千人が蒸発するというテレビ番組を見て、自分も蒸発することを決断する。アパートを解約し、銀行口座をまとめ、ある時ユズに何も言わずにアパートを出て。そしてパリの反対側の13区のホテルに1人で住み始める。
それから毎日酒ばかり飲みながら、かつての恋人たちを思い出す。ケイト、カミーユ、クレールなどなど。そのうちのクレールとは何十年ぶりに再会して食事をし、彼女の家にまで行くが、セックスはできなかった。それは抗うつ剤のために「セロトニン」の機能が落ち、男性ホルモンが少なくなったからだった。本の題名はここから来ている。
彼は環境科学生命工学学院の出身で、同級生の旧友エムロックに会いに行くが、彼は農業に絶望し、悲劇的な最期を迎える。フロラン=クロードはパリのホテルに戻り、死を思いながら生き延びる。
すべてを捨てて蒸発し、余り金でこっそり暮らす、過去の女たちを思い出しながら。この姿に私は妙に共感し、読みながら焦った。13区のメルキュール・ホテルは3年前に私が半年住んだ近くでその前をよく通ったし、主人公が通うスーパーやカフェに行ったこともある。もっと長くパリにいたら、自分もフロラン=クロードのようになりそうな気がした。
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