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2019年12月12日 (木)

ようやく『象は静かに座っている』を見た

中国の胡波(フー・ボー)監督『象は静かに座っている』をようやく劇場で見た。3時間54分という長さもあって、去年の東京フィルメックスでも試写でも躊躇していたが、脚本家の青木研次さんに「すごいよ」と言われて見ることにした。

映画は、田舎町で絶望的な時間を送る4人の1日をじわじわと描く。カメラは手持ちの長回しのうえ、まるでスマホで撮ったかのように焦点は1点にしか合わせないため、周囲はボケて見える。会話の相手の顔さえよく見えないことも。そもそも日の当たらない暗いシーンが多い。そしてどこにも救いのない世界が4時間続く。

ヤクザ風の30男のチェンは恋人に振られて、友人の妻と関係を持つが、友人はそれを知ってマンションから身を投げる。高校生のブーは父親に叱られ、不良グループとケンカをしてリーダーを階段から突き落とす。ブーの同級生の女の子リンは、母と不仲で教師と関係を持つが、ネットでバラされてしまう。老人のジンは娘夫婦に老人ホームに行ってくれと頼まれる。

最初はとにかく中国の田舎の絶望をひたすら見せたいのだなと思っていたら、この4人が交差し始めてだんだんおもしろくなる。ブーが突き落とした不良のリーダーは、チェンの弟だったり、金のないブーが売ったビリヤードの玉突き棒を老人のジンがもらって持ち歩いたり。何も考えていないように見えて、実は巧みに作られている。

映画の題名は、冒頭でチェンが「満州里の動物園で象がずっと座っているらしい」と言うところから来ている。これがどういう訳かほかの3人に伝わって、ブーとリンとジンはそれを見に満州里に行こうとする。ジンは愛する孫娘をこっそり連れて来る。ブーは偽切符を売られたりするが、何とか4人は切符を手にした。ところが列車は出ない。そこでバスに乗る。

「見ましたよ」と青木さんに話したら、この監督が自分で書いた原作の短編小説のコピーをもらった。その小説では象のある動物園は満州里ではなく、何と台湾の花蓮市だった。そして高校生の男女も老人も出てこなかった。

1988年生まれのフー・ボー監督の長編デビュー作にして遺作という。この神話のような大作を撮った後に自殺したというから、自らをも神話にしてしまった。

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