映画祭「スポーツの光と影」を楽しむ
私の学生が企画した映画祭「スポーツの光と影」で、イランのジャファール・パナヒ監督『オフサイド・ガールズ』(2006)を見た。パナヒ監督は現在では映画製作と国外渡航を禁じられているが、それでもいつの間にか映画を作って海外の映画祭に出している。
この週末にも『ある女優の不在』が公開されるが、『オフサイド・ガールズ』はまだ普通に映画製作が許されていた時代の作品。実を言うと私は今回の映画祭で初めて見たが、抜群におもしろかった。
イランでは女性はサッカー観戦ができない。ワールドカップ出場をかけたイラン対バーレーンの試合をどうしても見たかった女の子は、隠れてバスに乗って会場に向かう。そこには、娘が会場に行ってしまって心配な中年男性も乗り込む。女の子は結局入口で捕まって、スタジアム脇に連れていかれる。そこには既に4人の女の子がいた。
そのうち1人がトイレに行くだけで大騒ぎとなる。男性用トイレしかなく、兵士は男性を全員追い出してから女性に用を足させようとする。結局女性は逃げ出すが、試合を半分見て戻ってくる。そこにもう1人の娘が捕まってやってきたり、娘が見つからない中年男性が来て姪を見つけたり。
最後は6人の娘たちが移送中にラジオで試合の実況を聞く。イランが勝ってワールドカップが決まると大騒ぎで、車内で花火をやる始末。道路も大混乱で、女の子6人は騒動に乗じてこっそり逃げ出す。
トイレに行くあたりからブラックな笑いが止まらない。トイレから男性の声が聞こえて「もっと左、そこ、そこ、ああいい」などと聞こえるから兵士がもしやと開けると実は、というシーンもある。最初は兵士たちは嫌な奴に見えるが、だんだんと人情味のある普通の人間だとわかってくるし、女の子たちの中にはかなり強気に自分の意見を言う者もいる。
映画製作を禁じられてからは『これは映画ではない』や『人生タクシー』など、映画を作れないことを逆手に取った作品を連発しているが、『オフサイド・ガールズ』に既に体制を揶揄するブラックユーモアがこれほどあったなんて。やはりパナヒは天才だった。
『オフサイド・ガールズ』ではイランという国について改めて考えたが、少女ムエタイのドキュメンタリー『リトルファイター 少女たちの光と影』ではタイという国が本当に不思議に思えた。外国映画だと、スポーツというテーマ以上に国の姿が見えてくる。
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