『ラスト・レター』には泣かなかった
岩井俊二監督の『ラストレター』を公開初日に見た。たまたまポイントが貯まって無料だったからだが、予告編を見た時にちょっと気になった。ちょうど『スターウォーズ』の最新作や『お帰り 寅さん』のような回顧ムードが漂っていたから。
つまり、自分で作った数十年前の映画を振り返った映画で、『ラストレター』は題名からしても同じ監督の『ラブレター』(1995)を想起させる。岩井監督は私と同世代だが、実は『ラブレター』は公開時に見ていない。その醸し出す雰囲気に「違和感」を持った。ようやく見たのは10年ほど前で、韓国の留学生たちがしきりにこの映画の話をするから。
さて、『ラストレター』だが、『お帰り 寅さん』のように泣くことはなかった。こちらは吉村秀隆、後藤久美子、倍賞千恵子、前田吟たちが、20年以上たった姿で出てくるだけでたまらなかった。だが、『ラストレター』の福山雅治も松たか子も『ラブレター』には出ておらず、彼らの高校時代は神木隆之介や森七菜が演じている。
亡くなった人を偲んで手紙を送るというパターンは『ラブレター』を踏襲している。しかし高校生の時に未咲を好きで大学生になってつきあった「売れない小説家」役の福山の余裕たっぷりの姿に違和感を持った。そんなに好きなら、未咲が生きているときにどうして行動を起こさなかったのか。
あるいは松たか子は高校生の時から長い間福山が好きだったが、再会しても思い切った行動には出ない。というか、そういう不倫はしない日常的オーラを出していて、嫉妬深い夫と仲良くしている。この2人に比べると結婚に失敗して自殺した未咲は相当に苦労したはずだが、それは一切触れられず、その娘役の広瀬すずにも暗い影はない。
そのうえ、松の夫役の庵野秀明、庵野の母役の水越けい子、その恩師の小室等、松の父役の鈴木慶一といった「業界人」の脇役に緊張感がなく、業界ノリで遊んでいるように見えた。後半に『ラブレター』の中山美穂と豊川悦司が出てきた時は嬉しかったが、あまり盛り上がらずに終わった。
良かったのは、福山が未咲の娘の広瀬すずと松の娘の森七菜を廃校になった高校で偶然に見つけて会話をするシーン。まるで25年前に戻ったような感じがあった。広瀬すずが福山を自宅に連れてきて、未咲の「宝物」だった福山からの手紙を見せる場面に心が動いた。
25年前に感じた「違和感」は、今も変わっていなかった。
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