『お帰り 寅さん』に泣く
山田洋次監督の『男はつらいよ お帰り 寅さん』を劇場で見た。シリーズ第一作から50年、さらにシリーズの50本目という。1969年に始まったこのシリーズはまさに私の同時代のはずだが、当時は1本も見ていない。あの渥美清演じる寅さんの感じが、小学生の頃から何となく嫌だった。
かつてはお盆と正月と年に2度もやっていてその予告編がテレビで流れており、「寅さんだけは見る」という人が大勢いた時代があった。中学生の時に『エクソシスト』や『ジョーズ』が大好きで、大学生になってからはタルコフスキーやアンゲロプロスや鈴木清順を貪るように見た私にとって、「寅さん」はほとんど敵に近かった。
山田洋次監督の映画を同時代的に見始めたのは『たそがれ清兵衛』(2002)から。もちろん映画を教え始めてからは『男はつらいよ』第一作や『家族』などは見たけれど。そんなわけで怖いもの見たさのような感じで50本目を見たが、何と泣いてしまった。
映画の感じとしては『スターウォーズ/スカイウォーカーの夜明け』に似ている。かつて若かったキャリー・フィッシャーやハリソン・フォードなどの俳優たちが、老人として出てくるから。個人的にも77年に始まったこのシリーズも同時代的には見ていなかった。ただしこちらはこれまでのシリーズの映像は使われていない。
『お帰り 寅さん』は、これまでの49本の映像をたっぷり過ぎるくらい使っている。小説家となった満男(吉岡秀隆)が高校生時代の恋人の泉(後藤久美子)と再会する話が中心だが、満男の老いた父母(前田吟と倍賞千恵子)が出てきて、彼らが昔話をするたびに、過去の映画のシーンがふんだんに出てくる。
見ていて「またか」というくらいに会話に映像が挟まれる。まるで映画を解説付きで見ている感じで、これはいくら何でも節操がなさ過ぎだと思い始める。それでもおもしろいのは、渥美清の抜群のパフォーマンスが楽しめるから。満男に恋愛の指南をしたり、遅く帰ってきて自分にメロンが残っていなかった時に怒ったりする時の饒舌な語りはまさに名人芸。
泣いたのは、満男と泉の再開と別れのシーン。会社員を辞めて中年で新人作家になった満男の書店でのサイン会に、国連難民高等弁務官事務所で働く泉が帰国中に偶然出くわす。そして2人が知る浅丘ルリ子とも会う。約30年ぶりの再会は、私の年になるといろいろ思い出す。空港での別れのキスも。
それ以外もとにかく巧みに継ぎはぎして構成されているので楽しめるが、115分は少し長かった。そういえば『男と女』(66)も同じキャストの53年後を描いたというから、これまた怖いもの見たさで見ようかな。
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