『ある島の可能性』の描く未来
また、ミシェル・ウェルベックの小説を読んでしまった。『ある島の可能性』はこれまで呼んだ彼の小説に比べると前半はかなり退屈だったが、後半がぜんおもしろくなった。
内容としては、ごく近未来を描く『服従』、その先を見せる『素粒子』のその後の未来が展開する。『服従』でイスラム教はフランスにおいてキリスト教を凌駕して政権を取るが、この本ではあらゆる欲望を肯定するエロヒム教がキリスト教や仏教を追い出し、最後にはイスラム教を飲み込んで世界を制覇する。
「エロヒム教は、「消費」という資本主義のあとを歩んだのだとも言える。資本主義はかつて、若さにきわめて高い価値を見出し、伝統を重んじる心や、先祖を敬う心を徐々に破壊した。エロヒム教は、資本主義が重宝した若さと、それに伴う快楽の、永遠の持続を約束したわけだ」
「改心した信者が全員通過する最初の儀式—DNAの採取ーとともに為されるサインは、死後、すべての財産を協会に委託する旨の証書である」「アメリカでのビジネス界での集中的なキャンペーンを行った結果、まずスティーヴ・ジョブズが改宗した—彼の場合はエロヒム教になる前にもうけた子供たちに財産の分配をする部分的特例を要求し、獲得した。続いてビル・ゲイツ、リチャード・ブランソンが改宗し、その後も世界的企業の指導者がこれに続いた」
「エロヒム教の根本を為す第二の儀式は、再生への待機の開始—またの名は自殺—である。これについては、しばらくは躊躇、いや動揺があったが、徐々に公の場で完遂されるしきたりが確立された」
小説は、コメディアンで映画監督のダニエルが、この宗教に近づきながらも欲望を追いかけて生きてゆくさまを描く。これが「ダニエル1」で、一方で2000年後のネオ・ヒューマンとなった「ダニエル24」(後に次の「ダニエル25」」の短い物語が挟み込まれる。
というよりも、小説全体があらゆる欲望を失くした未来のクローン人間が、ダニエル1が書いた記録を読む形で進むことに気がつく。ダニエル1はテレビに出て映画を撮ってセレブとなり、取材をした編集者のイザベルと出会う。イザベルが去った後は、オーディションに来たスペインの若いエステルと同居する。
ダニエルは自殺する前のイザベルと再会して言う。「最初の女性—君—は、そんなにセックスが好きじゃなかった。そして二番目の女性—エステル—は、そんなに愛が好きじゃなかった」
一方でエロヒム教とはダニエルは距離を保っていたが、こちらの宗教団体のありえない展開については後日(たぶん)書く。
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