大学生はフランス映画を見るのか
前に書いた通り、今期から某大学で非常勤講師として「フランス映画史」を教えている。100人前後の受講生がいて、学期末に試験をすることになった。私はそのうちの1問を「この1年間に映画館で見たフランス映画の新作1本を選び、感想を書け」という設問にし、それを事前に学生に伝えていた。
100点のうち10点だから比重は大きくないが、12月初めにそれを伝えると、毎回のように授業の前後に質問が来た。
「是枝監督の『真実』はフランス映画になりますか」「はい、フランス資本が中心でフランスの俳優が出ているのでフランス映画です」/「『永遠の門 ゴッホが見た未来』はフランスが舞台ですが」「いや、それはアメリカ資本でウィレム・デフォーが主演の英語の映画なのでダメです」/「『最強のふたり』のアメリカ版リメイクは?」「ダメです」/「『ディリリとパリの時間旅行』はアニメですが」「大丈夫です」
さて、試験の一番最後に約束通りこの問題を出した。学生が取り上げた作品で一番多かったのが『冬時間のパリ』で、次が『パリの恋人たち』。これらは12月20日と13日の公開なので、試験に出ると言われてから見に行ったのだろう。3番目が『私の知らないわたしの素顔』で、これは1月17日公開なので、試験の直前に対策で見に行ったに違いない。
この3本で50人ほど。これらを上映した文化村ル・シネマは急に大学生が増えて、驚いたのではないだろうか。フランス映画は大学生にウケる、と勘違いしないように。そのほか目についたのは、『アマンダと僕』と『シュヴァルの理想宮』(これは12月13日公開)が約10名弱。ほかはバラバラで、『真実』、『クライマックス』、『パリ、嘘つきな恋』、『ジュリアン』、『12カ月の未来図』、『ある女の一生』、アニメ『ディリリ』、ドキュメンタリー『人生ただいま修行中』など。
旧作の初公開『ラ・ポワント・クールト』や『アンナ』、4K復元の『去年マリエンバード』などもいた。残念なのは『最強のふたり』とか『アメリ』などの有名な旧作を配信かDVDで見て書いた学生が数名いたこと。なかにはネットフリックスだけで配信されている『バンリューの兄弟』もあった。
結論から言うと、2/3は試験に出るから見に行った感じで、普段は映画館でフランス映画は見ていないのだろう。実は受講生の半分近くはフランス語を専攻しているのだが。「映画館に行く」という設問がもはや時代遅れだったのか。
さて採点はどうやったかと言えば、10点満点で、映画館の新作でなければ5点以下。新作の場合は監督や俳優の名前が入っているか、あらすじと感想の両方がきちんと書けているかで、6点から10点をつけた。こんな設問は自分でも初めてで、興味深い結果となった。しかしこれは上映本数の多いフランス映画だからできることで、イタリア映画やドイツ映画はとてもできないだろう。
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