『37セカンズ』の力業
2月7日公開の『37セカンズ』を試写で見た。去年のベルリン国際映画祭で複数の賞を取ってその後も海外の映画祭への出品が続いた話題作だ。監督はHIKARIというアメリカで映画を学んだ女性で、初長編監督という。
海外の映画祭で賞を取る日本映画は、相当に尖っている。一般観客向けのウエルメイドの日本映画は全く相手にされない。今回見た『37セカンズ』もまた、その「尖った」1点を確実に持っていた。
映画は車いす生活のユマが家に帰って、母とシャワーを浴びるシーンから始まる。いきなり2人の裸が見えて驚くが、2人は気持ちよさそうに風呂に入る。そしてユマが母親から次第に独立してゆく様子を描いてゆく。
彼女は実は少女コミックで有名なSAYAKAのゴーストライター。ユマが絵を書いてSAYAKAに送り、美人のSAYAKAはそれを編集者(宇野祥平)に渡し、ファンを集めたサイン会も開く。編集者もユマはアシスタントだと思っていた。
そこからユマが動き出す。編集者に自分の漫画を送ったり、エロ漫画の編集長に会いに行ったり。編集長に人生経験のなさを指摘されて、ユマはさらに踏み出して、新しい世界に足を入れる。心配する母。
ユマを演じる佳山明が抜群にいい。というより、この映画は実際に脳性麻痺で車椅子で暮らす彼女を撮ったドキュメンタリーのようだ。蚊の鳴くようなか細い声だが、みんなに丁寧できちんと主張をする。素直に喜びを表す笑顔がすばらしい。
編集長に会うあたりまでは、ちょっと作り過ぎかなと思っていたが、車椅子でずんずん進む彼女にだんだん同化してしまった。カメラは車椅子のあたりに置かれ、観客はユマの目から世界を見てゆく。するとこれまで知っていたはずの世界が、全く別のものに見えてくる。例えば建物のエレベーターが故障したシーンではユマはその階から動くことができない。本当に小さな声で「助けてください」と叫ぶしかない。
それがきっかけで、ユマはセックスを求める障がい者やその相手をするデリヘルの女性(渡辺真起子)や介護者と知り合い、別の世界が開けてゆくのだけれど。そして母には「心配しないで」と電話をして、父を探す旅に出る。
途中からは何度か涙が止まらなかった。無事に帰ってきたユマが、大きく成長しているのが素直に嬉しかった。これほど演じる者の視点に近づくことのできた監督の次回作が楽しみだ。
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