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2020年1月28日 (火)

『ロングデイズ・ジャーニー』の奈落に落ちる

中国にビー・ガンという20代のすごい監督がいるという話は聞いていたが、2月28日公開の『ロングデイズ・ジャーニー この夜の涯てへ』を初めて見た。確かに、タルコフスキーからタル・ベーラ、ウォン・カーウァイ、ツァイ・ミンリャンといった天才たちを思わせる作風だった。

父の死をきっかけに、中年の男ルオが故郷の凱里という田舎町に帰ってくる。そこで出会うワン・チャーウェンと名乗る謎の緑のドレスの女(タン・ウェイ)。そして亡くなったかつての幼馴染の少年・白猫や地元のヤクザを思い出し、白猫の母親(シルヴィア・チャン)と会う。

後半は主人公が映画館に入ってそこから3D映像になる。なんと1時間のワンシーン・ワンカットで、ルオが出会うのは、タン・ウェイ演じる赤いジャンパーの女と、シルヴィア・チャン演じる赤毛の女。カットなしの3Dのせいで、観客はまるでカメラと共に空を飛び、謎の街を彷徨う感じになる。

少年時代の苦い思い出のなかで、2人の女優が全く違う様相を見せる。若い女は「ファム・ファタル」として主人公を誘惑し続け、年かさの女は「母」として主人公を守る。主人公=カメラ=観客が立つのは、捨てられた田舎や工場の跡のような廃墟で、何もしないで記憶を探り、女の跡を追う。

あえて言えば、男の究極のロマンのような映像かもしれない。廃墟の中でたたずみ、少年時代の記憶と逃げ去る女と自分を守る母のあいだを彷徨うのだから。試写室では寝てる人もいたが、私は目を見開いて最後まで見た。まるで奈落に落ちたような気分でどっと疲れた。138分だったが、この疲労度は3時間くらいに思えた。

ビー・ガンは1989年生まれで、この映画をカンヌに出したのは28歳の時。『象は静かに座っている』のフー・ボー監督は1988年生まれなので、こちらは亡くなったが同世代。これはビー・ガンの第2回長編というが、最初の『凱里ブルース』も公開されるのでぜひ見てみたい。恐るべし、中国の新世代。

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