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2020年2月24日 (月)

『スキャンダル』の苦さ

ジェイ・ローチ監督の『スキャンダル』を劇場で見た。何となく派手な映画を見たいと思って、予告編で選んだが、なかなか当たりだった。2017年秋に始まった#MeToo運動の結果として生まれた、たぶん最初の劇映画ではないか。

映画は#MeTooの始まる前年の2016年、FOXニュースの報道部が舞台。自分に従わないとCEOのロジャー・エイルズ(ジョン・リスゴー)に解雇されたベテランのキャスター、グレッチェン・カールソン(ニコラ・キッドマン)が、ロジャーをセクハラで訴える。それは大きなニュースになって、かつてロジャーのもとにいた女性たちが次々と証言を始める。

しかしFOXニュースの中は微妙な雰囲気が漂う。ロジャーを支持する社員も多いが、看板キャスターのメーガン・ケリー(シャリーズ・セロン)は態度を保留し、ロジャーにセクハラにあったばかりのケイラ(マーゴット・ロビー)は悩む。FOXニュースのオーナーであるルパート・マードックの息子たちは、ロジャーの追い出しを考える。

ロジャーという創業者が悪人で、彼とそれに従う者に対して女性社員やオーナーが戦う話かと思うと、そうでもない。ケイラのレズの友人も含めて、みんな自分の保身だけを考える。見ていて疲れるくらい膨大な数の社員が名前付きで出てくるが、みんな「様子見」だ。中心となるグレッチェン、メーガン、ケイラの3人さえもほとんど協力体制を組まない。

だから見ていてすっきりしない。マードックの息子たちもボンボンにしか見えない。そのうえ、もともとFOXニュースは保守系で、当時大統領候補だったトランプを応援する立場。当然マスコミの中では人気がなく、ほかのテレビにはなかなか移れない。

しかし、その停滞感が苦く伝わってくる。ロジャーが若いケイラをセクハラする場面、メーガンがかつてロジャーからセクハラを受けたことを話す場面、グレッチェンが過去1年のロジャーとの会話を録音していた事実など、見ていていたたまれない。

なぜ苦いかというと、昔、新聞社にいた自分には同じ雰囲気の記憶があるから。外目にはエリートで高給である種の権力を持っているから、社内は問題だらけでも陰で文句を言いながらも誰も逆らわず辞めずにしがみつく。それはある意味で大学教員の今も同じ。この映画はその感じをうまく見せていて心に残った。

原題はスキャンダルでなく、Bombshell(=爆弾)。つまりグレッチェンが炸裂させた最初の爆弾がきっかけで、女性たちの小さな爆弾があちこちではじけていき、最後に炸裂する。だが私にはむしろ、長い不発弾の状態を描いた映画のように思えた。

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