『屋根裏の殺人鬼フリッツ・ホンカ』の腐臭
(手違いで昨朝2時間ほどアップしたものです)映画は匂いは伝えないはずだが、これほど腐臭がしそうな映画は初めて見た。ドイツのファティ・アキン監督の『屋根裏の殺人鬼』で、試写に行けずに映画館で見た。この監督はトルコ系だが、私はドイツでは一番才能があると思っている。
彼はいろいろなタイプの映画を撮っているが、今回はひたすらリアリズム、それもグロテスク・リアリズムと言うべきだろう。1970年代のハンブルク、冒頭にベッドに横たわった太った女の尻が見える。男は手足を切り刻んでスーツケースに入れて近所の空き地に捨てる。残りを壁の隙間を開けて押し込んで壁をテープで塞ぐ。
手前の部屋の中にはヌード写真がびっしりと貼ってある。フリッツ・ホンカという名の男は工場に通い、開いた時間を「ゴールデングローブ」という24時間営業のバーで過ごす。そこにはアル中の男たちに混じって、行き場のない中年女性たちもいる。少しでも見栄えのよい女には相手にされず、太った金のない女を見つけては「家で酒を飲ませる」と連れ込む。
相手に馬鹿にされると逆上して殺してしまう。その後は死体を切り刻んで壁に埋める。その腐臭はアパート全体に広がって苦情が来るが、「下の階のギリシャ人がいつもヘンな調味料で料理している匂いだ」と取り合わない。ある時はそのギリシャ人一家の食卓に、天井からウジが落ちてくる。
フリッツ・ホンカは鼻がゆがんで醜い。出てくるアル中の中年女たちも気持ち悪い。ある時はそのうちの一人が住み込んで料理まで作ってあげるが、救世軍の女に連れられて行ってしまう。ホンカは交通事故に会ってからは警備員になって、アルコールを断って真面目な生活を始めるが、職場で知り合った若い女の夫に勧められて、またアル中の生活に戻ってしまう。
ラストに至るまで救いはないし、ドラマもほとんどない。事実を追うだけだが、それでもホンカという人物が何となくわかってくるから不思議なものだ。最後に本当のホンカの写真や彼の実際の部屋が出てくるが、映画とそっくり。何も足さずに事実だけを並べるだけで、この監督らしい味わいを出すのに成功している。
1人で見たが、これは誰かと見るものではない。見ている途中で出た客も一人いた。万人向きではないが、この徹底した気持ち悪さを好きな人はいると思う。
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