『ロマンスドール』はすばらしい
劇場で見たタナダユキ監督の『ロマンスドール』がすばらしかった。この監督は大学に移ったばかりの頃に学生に勧められて見た『百万円と苦虫娘』(2008)でその才能に驚き、『ふがいない僕は空を見た』(12)や『ロマンス』(15)も大いに気に入った。
日本の女性監督としては、個人的には河瀨直美さんや西川美和さんよりも好きだ。彼女は井口奈美さんと並んで映画らしい映画を作る監督だと思うが、どちらもいま一つメジャーな存在にはなっていない。
今回は題材が際どい。ラブドールを作る職人の哲雄(高橋一生)が、モデルとして来た園子(蒼井優)に一目ぼれする話だから。2人は結婚することになるが、哲雄の仕事が忙しすぎることもあり、2人は少しずつ離れてゆく。そんな時、園子にあることが訪れる。
先ず何より、2人のシーンがすばらしい。会ったその日に帰る園子を追いかけて、駅で「好きです」と告白する時の緊迫感と2人の顔。そして後半、セックスの場面がたっぷり出てくるが、気持ちが離れていた2人が肉体によって再び結びついてゆく。その時のお互いの体の動きの自然さと真剣さに溜息が出そうだ。
日本映画のセックスシーンの多くは男性の側から見たもので、どうしても男性観客を想定している。ところがこの映画は男女を超えてお互いの優しさに基本を置いており、身体的な結びつきが純度の高い精神性を作り出している。16㎜の撮影というが、ざらざらした感覚が変わりゆく肉体を克明に捉えていた。
男がラブドールの職人というところが、大いなるユーモアだ。さらに哲雄は園子をモデルにしたドールを作り上げるのだから、まるで冗談のようだが本気なのだ。高橋一生もいいが、やはり蒼井優がすばらしい。今回は夫を立てながらも実は自分の意志を持つ女を微妙に演じている。そしてできたラブドールが彼女そっくりなのに驚く。同じ工場の先輩を演じるきたろうや渡辺えり、社長のピエール瀧などのしっかりした存在感も心地よい。
あえて言えば、この2人の生活環境が少し高級感溢れすぎたのに違和感があった。病院では個室だし。哲雄の会社が大儲けしている風ではないし、園子は仕事をしているようには見えなかった。
かなりの秀作だと思うが、劇場は閑散としていた。こういう映画がベルリンなど海外に出たらいいのにと思う。新聞評では「毎日」のみがいい扱いで(鈴)が高い評価だったが、「読売」の短行評では(誠)が「泣かせたいのか、笑わせたいのか分からない恋愛映画」と書いていた。これはあんまりだ。
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