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2020年2月29日 (土)

『三島由紀夫VS東大全共闘』が面白過ぎる

3月20日公開の豊島圭介監督『三島由紀夫VS東大全共闘 50年目の真実』が抜群におもしろかった。これはTBSが撮影した1969年5月13日、東大駒場での三島の講演会の映像を中心に、インタビューなどを加えたものだが、何より三島の気さくな物腰や発言に驚いた。

当時、三島は44歳で切腹自殺の1年半前。20代前半の1000人の学生を前に、煙草を吸いながら楽しそうに語る。テーマは知性、他者、自然、天皇、共産党、自民党、解放区、日本人等々。

すごいのは、これが学生との対話方式で、前の方にいる学生たちはマイクを奪ってどんどん質問し、三島の発言を遮り、非難する。「それは意味がない」「我々と共闘できるか」。会場から「三島を殴るというから来たのに、馴れ合いじゃないか」と声も飛ぶ。すると司会の学生は「前に出てきて話せ!」

学生の言うことの多くはあまりにも抽象的で多くは今聞くとほとんど意味がないが、それでも三島はさえぎらず、丁寧に最後まで聞いて自分の考えをゆっくり話す。非難されても、余裕でニコニコ笑って煙草を吸っている。

これは有名な言葉だが「君らが天皇という言葉を発してくれたら、一緒に戦うのに」と三島は言う。すると学生は「これまで批判の文脈も含めて「天皇」という言葉は使っていますよ」。三島は「たぶんその言霊は、これからも残って漂うよ」と謎めいた返事。

赤ん坊を抱えた髭の学生が、自信満々に三島を論破しようとする。この男の理論は抽象的で意味不明だが、三島は最後まで聞く。三島が天皇擁護を始めたら、その髭男は「もうここにいても意味がない」とそのまま帰ってしまう。

彼の名は芥正彦で、当時一番の論客だったという。70歳を超す現在の彼も出てくるが、見た目は老けていても言う内容は50年前とほぼ同じなのに笑ってしまう。学生の代表の木村修は、当時も今も落ち着いて紳士的だ。会場にいた橋爪大三郎のほか、楯の会のメンバーまで、現在の姿で登場する。50年たつと、芥を除くと左も右も区別がつかない。

最後に学生が「私たちと本当に共闘できないか」と尋ねると、「私は諸君の熱情は信じるし、魅力的だ。だけど共闘は断る」と言って終わる。三島は学生代表の木村に後日電話して「楯の会に入らないか」と勧誘したという。木村が躊躇していると「どこから電話しているんだ?」。「婚約者の家です」と答えると、後の妻と5分ほど話したらしい。木村は最近妻から三島が話した内容を聞いた。「あの男を好きか」という話だったという。

あれだけ柔軟に大学生と会話を楽しめるとは、大学の教師として嫉妬をしてしまった。

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