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2020年2月13日 (木)

府中に青木野枝を見に行く

府中市美術館は遠い。中央線からも京王線からもバスに乗る。めったに行かないが、3月1日までの「青木野枝」の個展を見に行った。直接的には、例年ながら低調の「恵比寿映像祭」(2月23日まで)を見て、そのあまりにあやふやな「現代美術」像にがっかりして、なにか確固とした作品を見たいと思ったから。

青木野枝は、1点ならばいろいろな美術展で見たが、まとめて見たことがない。これは府中まで行く価値があると思い立った。まず1階のロビーに高い鉄の立体がある。20メートルほどの4本の細い鉄の足のうえに鉄の輪。その真ん中にかかる薄青いプラスチックの板が危うい感じに漂う。

その手前に、遠くから見ると色とりどりのマカロンをいくつも積み重ねたような立体が並んでいる。近づくと使われた石鹸のようで、四方は鉄が囲んでいる。小さな作品だが、四方に強度を放つ。

展覧会場に入ると、鉄の輪をいくつも繋げた立体がある。輪のいくつかにはガラスがはめてある。別の部屋には輪の一部に卵を組み合わせた作品もあった。あるいは白い石膏のオブジェが並んでいる。

一見親しみやすそうな立体なのに、近づくとどれも中には入れず、厳しい「規則」のようなものが支配している。日本画用の展示ケースをそのままにして、薄青いプラスチックの板を垂らしたり、何もいれずに霧のような空間を見せたり。繰り返しの立体のリズム感は禁欲的だが、どこか身体的な近さを感じさせる。

展示空間に応じて、作品を溶接して作り変えているという。展示室を行ったり来たりすると、作り手が必死で人間的な空間を作り出そうとする意識が伝わってきて、痛々しいほど。やはりこれは7、8点の作品を同時に見られる個展でないと味わえない。

常設展ものぞいたら、牛島憲之の作品が多数展示されていて驚いた。彼の名前はよく聞いたが、これまた一度もまとめて見たことがなかった。遺族からこの美術館に約100点が寄贈されたという。眩暈のするような風景画が多いが、特に1940年から45年までの戦時期に数点の夢のような光景に深く心を動かされた。

府中市美術館は私の自宅から地下鉄とJR(または京王線)とバスで片道で1時間半くらいかかるが、「行く価値のある」美術館だった。

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