『海辺の映画館』を見て
大林宣彦の『海辺の映画館―キネマの玉手箱』を試写で見た。4月10日に公開予定だったが、延期になったようだ。私は前作の『花筐/HANAGATAMI』(2017)がかなり好きだったので期待したが、そこまではなかった。それでも見る価値は十分にある。
実は大林映画特有の「映像マジック」というか、紙芝居的な子供騙しに近い映像トリックは昔から苦手だ。ところが最近の映画にはある種の凄みというか、執念が感じられる。『花筐』は、戦時中の九州の唐津の文学青年たちの夢を描いた。それを壊してしまう戦争への怒りが随所にこもっていた。
今回はその戦争嫌いに映画愛が加わる。舞台は尾道の海辺にある「瀬戸内キネマ」。閉館する最終日は「日本の戦争映画大特集」のオールナイト上映だ。映画史を教える私は身構えた。きっと過去の作品がいくつも引用されるだろうと思ったから。
ところがそれはなかった。あくまで大林監督が戦争の場面を自分で組み立てていた。幕末、戊辰戦争、日中戦争、沖縄戦、そして原爆。オールナイトに観客としてきた毬男、鳳助、茂は、それぞれの時代の映像に自分たちが出ていることに気がつく。
また映画の中では一美(成海璃子)、和子(山崎紘奈)、百合子(常盤貴子)がどの場面にも出てきて、毬男たち3人の男性と出会う。一番若い希子(吉田玲)は3人の男性と同じく観客でもあり、映画にも出てくる。
あえて実際の映画を思わせるのは、侍たちが歌い出すシーンが『鴛鴦歌合戦』(1939)に似ているくらいか。あとは『無法松の一生』のいくつかのバージョンに触れられる。突然に小津安二郎と山中貞雄の会話が出てくるが、これは手塚眞と犬童一心が演じていて、ちょっとヘンだ。
気になったのは、全編で戦争反対を主張しながらも、あまり戦争責任に踏み込まないことか。沖縄戦に対してのみ、日本兵が沖縄の住民を殺したことを映像で見せるが、日中戦争ではあまり明確ではない。原爆についてはあくまで丸山定夫(窪塚俊介)を中心とした桜隊が原爆にやられたことだけが描かれる。
憲兵の恐怖は何度も出てくる。戊辰戦争の白虎隊への同情も多い。「戦争の前も後もお国に騙されてきたんです」「付和雷同の国民性がダメなんです」「天皇は軍部に操られた」というセリフがある。これでは一億総懺悔と同じように思える。終わりにはくどいくらいに「世界に平和を」「戦争がこの世からなくなるように」
ジョン・フォードが「この国は立ち直るだろう」と言うのを大林監督が演じているのは一度はやってみたかったのだろう。今年81歳でガンを押して作った作品だが、やりたいことをすべて詰め込んだ感じがする。何度も引用される中原中也の詩もそうだろう。
脇役に高橋幸宏、小林稔侍(映写技師)、白石加代子(券売!)、尾美としのり、武田鉄矢(坂本龍馬)、片岡鶴太郎(千利休)、榎本時生、稲垣吾郎、蛭子能収、浅野忠信、品川徹、笹野高史、満島真之介、渡辺えり、長塚圭史など名だたる俳優が並んでいる。それだけでも見ていて楽しい。
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