『ミッドサマー』にいろいろ考えた
アリ・アスター監督の『ミッドサマー』を劇場で見た。この監督で話題になった初長編『ヘレディタリー/継承』は見ていないが、今回は映画の現場で働く40代の友人がフェイスブックで激賞していたので、見てみようと思った。かなり当たっているのも気になった。
なかなか興味深い映画だった。最近は大学生といつも接しているので考えたのは、自分が大学の1、2年生ならば大絶賛しただろうということ。そしてパリ留学後の4年生やその後の数年だったら「これは映画ではない」と思い切り貶しただろう。
作りは基本的にホラー。アメリカに住む学生のダニーはある時突然両親と妹を亡くし、恋人クリスチャンの仲間数名と共にスウェーデンの夏至祭に参加する。そこは特殊なコミュニティで、高齢者は自ら死を選ぶ。外からやってきたダニーたちは異をとなえるが、次第に1人1人が殺されてゆく。
このホラーには、エスニシティ(民族性)と宗教性が加わっている。普通なら狂った集団だが、彼らなりの論理があるようで、アメリカやイギリスからから来た学生たちが必ずしも正しいとは限らないようにも見える。
そしてその特異なエスニシティを美しく見せる衣服や建物やダンスや儀式の美学がある。あの美しい人々には抵抗しがたい魅力があり、正しいのかもと思ってしまう。さらにそこにセックスとバイオレンスも加わる。クリスチャンはその部族の娘に気に入られ、部族全体が子供を作るように仕向ける。そして人を殺すシーンはどれもかなり強烈だ。
そのうえ、ドラッグ感覚の映像と音楽がある。やたらにカメラを動かし、小さな効果音を随所に配置する。これはいかれてしまう若者も多いのではないか。この種の映画にしては当たっているのもうなづける。
パリで映画を死ぬほど見た大学4年生の私なら、その操作を見破り、つまらないと言っただろう。そして今の私は「うまいなあ」「好き嫌いの分かれる映画だなあ」と考える。いつの時代にも出てくるマイノリティ好き向けの映画だが、2時間27分を飽きさせない相当の演出力があるから。
というわけで、なかなか素直に映画を見られなくなってしまった。
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