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2020年3月 4日 (水)

『ラスト・ディール』を楽しむ

フィンランド映画『ラスト・ディール 美術商と名前を失くした肖像』を劇場で見た。画商の駆け引きやオークションの話は好きだし、予告編で見たヘルシンキの街並みが懐かしかった。ヘルシンキは3年半前に1週間近くいて、その雰囲気が妙に気にいった街だった。

この映画は、老いた美術商のオラヴィがオークションに出る署名のないキリストの絵に惚れ込み、オークションで最後の大勝負に出る話である。オラヴィはそれがロシアの画家、イリア・レーピンのものだと思うが証拠がない。そこに不仲の娘レアに頼まれてインターンとして預かった孫のオットーがやってきて、思いもよらぬ活躍をしてしまう。オークションの後に絵は10倍以上の金額で売れそうになるが、そう簡単にはいかない。

まず、画廊のあるあたりの古い町並みがいい。オラヴィは近くのケーキ屋で毎日ケーキを買う。その前には市内電車が通り、画廊には絶えず電車の音が響く。レアと行く夕暮れの公園がいい感じだし、孫が急にバスに乗って遠くに出かける時の朝日も気持ちいい。オラヴィが孫にファーストフードをご馳走する中央駅前の大きな広場の屋台も懐かしかった。反対にレアの住む郊外は何とも殺風景ですさまじい。

オークションは地元のもので、地味と言われる東京に比べてさえ小さい。そこの社長が自らハンマーを叩いて売り立てをする規模だが、電話からの注文も入る。オラヴィが狙った作品は1200ユーロから始まるが、どんどん上がって10倍近くなる。それにしても100万円強なので、サザビーズなどの何億円という落札額とはケタが違う。

それでもその金額が手元にないオラヴィはあらゆる手段で調達をしようとして、孫にまで頼る。孫と図書館で懸命に資料を調べたり、孫のやみくもな行動力がオラヴィを助けたりと、この2人のデコボコ・コンビがおかしい。レアは最初は父親の無茶な行動に怒るが、最後には近づいてゆく。

オラヴィも娘も1人でギリギリの生活をしている。その孤独感にオークションや画家探しのサスペンスと家族愛がほどよく噛み合って、誇りを持ってしっかり生きる人々の姿が愛おしくなるような小品だった。

クラウス・ハロ監督は初めて見るかと思ったが、調べると彼が監督した『ヤコブへの手紙』(2009)はなかなか好きな映画だったのでその職人芸に納得した。

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