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2020年3月25日 (水)

『はちどり』に見る韓国の現代史

最近の韓国映画は『タクシー運転手』や『工作 黒金星とよばれた男』のように、現代史を描くものが多い。4月25日公開の女性監督キム・ボラの長編デビュー作『はちどり』も、中学2年生の娘の日常を描きながら、1994年の韓国を克明に写し取っている。

映画は14歳の中学2年生のウニの生きる世界を描く。彼女は巨大な団地の高層階に煎餅店を営む両親と兄と姉と共に住む。父親は子供のことを考えてはいるが、暴力を振るうこともある。長男は父親にソウル大学に行けと圧力をかけられ、憂さ晴らしにウニをいじめる。姉は恋人と遊ぶことに夢中だ。

ウニは中学の担任の先生にはなじめないが、友人のジスクとはカラオケやクラブに行く仲だ。彼女と通い出した漢文塾の女性の先生とはなぜか仲良くなってゆく。ジスクとケンカをしたり、男友達ができたり離れたり、下級生の女の子につきまとわれたり。微妙な感情がいつも揺れている毎日を過ごす。

そんなウニの不安定な日々に2つの事件が起こる。一つは右耳の下のしこりの手術。もう1つは10月21日の漢江にかかるソンス大橋の崩落事故。これらによって、ウニはいつのまにか少しずつ成長してゆく。

カメラはどこに行くにもベネトンの黄色いリュックを背負うウニの日々を淡々と追うが、まわりの小さな音や光もきちんと伝える。遠くの車や列車の音、犬や鳥の鳴き声。そして家の中や学校や漢文塾の風にそよぐカーテンや揺れ動く光や影もきちんと見せてゆく。まるでウニの内面が現れているように。

食事のシーンが多い。金属の箸とスプーンが大きな音を立てるのは日本との大きな違いだが、そのほかは日本の団地にそっくり。仕事熱心で子供に勉強を強いる両親も、突然現れて嘆く叔父も、私はまるで自分の少年時代を見ているようだった。その意味では、1994年の矛盾を抱えながらも高度成長まっしぐらの韓国は、1970年代の日本に似ているかもしれない。

考えて見たら、1994年に14歳のウニは1980年生まれなので、最近読んでここでも紹介した小説『82年生まれ、キム・ジヨン』の主人公とほぼ同じ。ウニがキム・ジヨンのように精神的におかしくなっていかなければいいが、と思わず思った。

1980年の光州事件から88年のソウル・オリンピックを経て、国際化と民主化の道を歩む途上の1994年の韓国がくっきりと描かれた映画だった。

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