『精神0』に考える
5月2日公開予定の想田和弘監督『精神0』を見た。この監督の「観察映画」第9弾だが、第2弾の『精神』(2008)の続編のような作品だ。『精神』は、精神科診療室「こらーる岡山」に集う患者さんたちを描いたものだが、そこの山本医師が妙に印象に残った。
それから10年たって、山本医師が82歳で引退するという。このドキュメンタリーは引退間際の山本医師を追いかけたものだ。最初に出てくるのは、「最後の診療」に来る患者さんたち。どの患者も、山本先生以外では無理だと訴えるが、医者はそれを否定するわけでもなく何となく診察を終える。とにかく静かにこやかに話を聞くことが、一番の治療のように。
手紙を渡す男性もいる。山本は大事そうに受け取る。カメラを見て「これで映画になるんですか」と想田監督に聞く者もいる。同じ患者の10年前の映像が白黒で出てくる。10年は大きい。診療所の近くには猫がいて、ときおり出てくるとほっとする。
中盤から妻の芳子が出てくる。どうも昼間は介護施設に行っているようで、医師が見送る。彼はカメラを向ける想田に対してお菓子を出そうとする。芳子はもはやそれを手伝うことはできないが、一緒に応接間に行ってお菓子を食べる。夫はお茶を入れるのかと思ったが、面倒なのかいつの間にかアクエリアスに。
テレビでは大相撲が放映され、それがガラス戸に写る。2人は高校の同級生で、中学生の時から知っていたという。山本はいかに妻が優秀だったかを語り、妻はニコニコと笑う。
夜になって山本医師は「想田さん、夕飯食べて行きなさいよ」と誘う。想田は断ろうとするが、聞いてくれない。医師は電話ですし屋に電話をし、妻には「1つはいつもの」と特別なもの(ワサビ抜きか)を頼む。持って来ると財布を探して6,480円払い、お椀を紙で拭いて用意する。そして断る想田に無理に酒を飲ませる。
芳子の女友達が訪ねてくる。10年前の写真の芳子は見違えるように若い。2人はコンサートに行ったり、株をしていたりした。山本が患者に入れ込み過ぎて家に泊めることもあり、芳子が苦労していたことを友達は語る。ニコニコしているだけに見えた芳子の人生の深淵が見えてくる。
2人は山本の家の墓に行く。山本が運転し、着くと妻の手を取って山道を歩いてゆく。持ってきたペットボトルの水で墓を洗い、花を生ける。10年前の『精神』がいつの間にか患者から山本医師の映画になっていたように、今度はフォーカスが山本医師から自然と芳子に移っていったことを知る。この偶然の変容が「観察映画」なのだろうか。やはり同じことを続ける者は何かを生む。
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