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2020年4月14日 (火)

日本統治下の朝鮮映画について再び:その(2)『迷夢』

都内のすべての映画館が閉じて1週間。試写もない。だいぶ前に試写で見た5、6月公開(できるのか)の数本を除くと、もうスクリーンで見た映画について書くことはできない。従ってこれから「喪が明けるまで」(そんな感じがする)は、DVDか配信で見た映画について書くつもり。今日は、数日前に見直した『迷夢』(1936年、英題Sweet Dream)に触れたい。

前にも書いたが、この時代の韓国映画は、2004年以降に主に中国で発掘されたものである。それまでは現存する最古の映画は、1946年の崔寅奎(チェ・インギュ)監督『自由万歳』だった。これは、私が1996年から97年にかけて『韓国映画祭1946→1996 知られざる映画大国』と銘打って約百本の韓国映画を全国各地で上映した時の一番古い映画だった。

それまでの韓国映画は日本統治下の作品だったので、当時映画を見ていた年配の評論家は部分的に評価したが、一般的には「そもそも日本統治下の映画は韓国映画ではない」ということで、韓国映画史には存在しなかった。ところが韓国映像資料院は2004年に中国電影資料館を訪問調査し、2014年までに『迷夢』を含む9本のこの時代の劇映画を発掘した。

韓国映像資料院はその調査をモスクワでも行い、10本近いニュース映画と数本の劇映画の断片を入手している。また日本との合作の今井正監督『望楼の決死隊』(1953)など3本は、既に80年代末に日本から購入している。

さすがに劇映画が20本ほど揃うと、「韓国映画ではない」とは言えなくなった。そのうえ、見て見るとかなりレベルが高い。多くの映画人が日本留学組だったり、クレジットの一部に日本人の名前はあるにしても、明らかに韓国映画の発展史で無視はできない。ましてや『自由万歳』の崔寅奎のように、戦後すぐに活躍した映画人の多くは、戦前からキャリアを積んできたわけだから。

そういう考えは「近代化論」としてポストコロニアリズムからは批判されがちだが、韓国では「漢江の奇跡」という近代化を成し遂げた朴正煕元大統領の娘、朴槿恵前大統領の時代には日本統治の部分的肯定があったようだ。だから慰安婦問題も前に進んだ。

それはさておき、現存する韓国最古のトーキー作品である梁株南(ヤン・ジュナム)監督『迷夢』は抜群におもしろい。なぜかと言うと、自由を求める女性の姿が、モダン都市京城を舞台に描かれているから。日本的要素はほぼない。あるとすれば文藝峰(ムン・イェボン)演じる愛順が一時的に恋に落ちる男が飲むのがキリンビールであることくらいか(これはタイアップの可能性大)。

あるいは、彼女がデパートで服を選び、タクシーを飛ばして男を追って街を彷徨う姿はまさにベンヤミンの書く「都市の放浪者」で、19世紀後半のパリから世界に広がったモボ・モガの表象は日本経由で京城に来たのかもしれない。今日はここまで。

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