ドイツ占領下のフランス映画を見る:その(2)『高原の情熱』
フランスのジャン・グレミヨンという監督は不思議な位置にある。ほぼ同世代のジャン・ルノワールのように、ヌーヴェル・ヴァーグの若い監督たちが絶賛してどんどん評価が上がっていったわけではないが、長い年月がたつうちに「尊敬すべき」監督になった。
日本でもこの監督は1本でも同時代的にきちんと劇場公開されたのだろうか。私は1990年代に『白い足』(1949)が公開された時に劇場で見た。あとはパリで見たか、東京日仏学院(今のアンスティチュ東京)で見ただけ。
最近、授業の準備で『高原の情熱』(1943)をDVDで見た。後にヌーヴェル・ヴァーグを形成する若者たちが知り合うきっかけになったのは、1949年のビアリッツにおける「呪われた映画祭」と言われているが、この映画はそこで上映されている。
たぶん見るのは初めてだが、まずそのおかしな登場人物たちに驚いた。山の上の保養地ホテル「守護天使」を切り盛りするクリ・クリ(マドレーヌ・ルノー)は、近くの城に住む金持ちのパトリス(ポール・ベルナール)を追いかけ回す。パトリスはそのホテルに現れた若い女性ミシェル(マドレーヌ・ロバンソン)に惹かれるが、彼女は恋人のロラン(ピエール・ブラッスール)を待っていた。
そこに現れてミシェルに一目ぼれをするのは、鉱山技師のジュリアン(ジョルジュ・マルシャル)。要するに1人の女を巡る三つ巴でフランス映画ではよくある話だが、およそ登場人物に共感ができない。
クリ・クリは元はパリ・オペラ座のバレリーナだが、パトリスを追いかけて近くに住んでいる。パトリスのためなら何でもする感じの年増女でちょっと危ない。パトリスは最初にミシェルを自分の馬車に乗せるシーンから嫌な奴の感じをプンプンさせる。とにかくすべて金で解決だが、妙に余裕があって寛大。
ミシェルが待っていたロランは、ぐてんぐてんに酔っぱらってバイクで現れる。まず道路をバイクで走る迫力に圧倒される。ヨタヨタしながらホテルに現れてミシェルの部屋に行く姿は、とても真面目そうな彼女が好きな相手に見えない。つまり、パトリスもロランもなぜ愛されているのかわからないので妙に病的な感じがする。
ところがおもしろいのは時々出てくるリアリズム描写で、この金持ちホテルの近くにダム建設の現場があり、大勢の労働者が働いている。ホテルにも時々爆発の音がするし、ミシェルが近づいて危うく爆発に巻き込まれそうになるシーンはかなりドキドキする。
この2つの世界が正面からぶつかるのが終盤。パトリスは誕生日に自分の城で盛大な仮装パーティーをやる。ホテルに帰るのに酔ったロランが運転する車はミシェル、パトリス、クリクリなどを乗せているが、猛スピードで道を外れた。ひっくり返った車で重傷を負うロランを助けるのはダム現場の人々。
もちろんホテルとダム現場をつなぐのが技師のジュリアンだが、2つの階級の接近と終盤の大パーティと悲劇は、まるでルノワールの『ゲームの規則』のようだ。もう1度見ないとその魅力はわからない。今日はここまで。
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