伊丹万作の『巨人傳』を見る
前から見たいと思っていた伊丹万作の『巨人傳』(1938)を神保町で見た。この監督は伊丹十三の父だが、映画史的には「知られざる巨匠」といった感じか。今、DVDになっているのは、ドイツとの合作の『新しき土』(37)しかない。
『新しき土』はドイツのアーノルド・ファンクとの共同監督だが、2人の意見が合わずそれぞれのバージョンができた。現在見られるDVDはファンク版で、ずっとまともな伊丹版は国立映画アーカイブで見られるのみ。
代表作とされる『赤西蠣太』(35)は一部が欠けているし、もう1本の代表作の『国士無双』(32)は20分ほどしかない。ほかにも2、3本残っているが、どれもDVDにはなっていない。実は私は学生の時に『赤西蠣太』を見たきりでよく覚えていない。
『巨人傳』は某大学の集中講義で原節子を取り上げたこともあって、見たいと思っていた。大河内伝次郎との共演で伊丹万作の遺作だし原作は『ああ無情』。一般的にはあまり評価の高い作品ではないが、見てみると相当の力作だった。
まず原作の『ああ無情』=『レ・ミゼラブル』にかなり忠実なのに驚いた。舞台は西南戦争の頃の九州に移し替えているが、大河内伝次郎演じる盗賊が聖職者(この映画では寺の坊さん)に助けられて盗んだ銀の燭台をもらって改心し、町長にまでなる。しかしある警官に見破られて追いかけ回されるという波乱万丈の物語が、きちんと明治時代の日本に収まっている。原節子演じる養女の恋物語まである。
とにかくチャンバラで鍛えた群集劇がすごい。映画は大沼町長の銅像が立つシーンから始まるが、そこに集まる町民たちの「押せな押せな」の騒ぎが尋常じゃない。火事が起きて町長は2階に閉じ込められた男を怪力で救い出すが、火事は本当に燃え盛り危険な感じが一杯だ。その時に新任警官の曽我部(丸山定夫)が彼の正体を見破り、追いかけ始める。
町長をやめて貧しい娘を育て始めた男・三平は、執念の警官・曽我部に追いかけられる。曽我部は三平を探し出し、馬に乗って追いかける。三平は娘と馬車を駆って逃げる。ある時は何十人もの警官が追いかけ、2人で屋敷町を逃げ回る。もうだめかと思うと小さな隙間に逃げ、さらに見つかって逃げ切る。
原節子演じる成人した娘・千代子が出てくるのは、実は2時間7分の映画で1時間15分ほどたってから。父親は若い男を雇って千代子に英語を習わせるが、若い2人は近づいてゆく。父がわからないように、2人は英語で愛を語るが、そのうち父は寝てしまう。今日はここまで。
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