映画館最後の『ようこそ、革命シネマへ』
一昨日の7日(火)までで、すべての都内の映画館が閉じた。その日に最後に見たのが、スーダンの監督が撮った『ようこそ、革命シネマへ』。かつて映画監督だった老人たちが集まって、映画館を作る話と聞いて心が躍った。「最後の映画」にふさわしいかも。
映画は停電のシーンから始まる。真っ暗いなかで老人たちが数名、何やら芝居を始める。それが何と『サンセット大通り』の真似で、老人たちがグロリア・スワンソンとシュトロハイムの役を演じている。そして終わるとケラケラと笑い出す。ここでようやく、ドキュメンタリーだとわかった。
彼らは仲が良さそうだが、それもそのはずで、かつてスーダンを出て海外で映画を学び、1970年代から80年代にかけて監督やプロデューサーとして国内で活躍した映画人だった。ある者は東ドイツのポツダム、ある者はソ連のモスクワ、あるいはエジプトのカイロの映画学校に学んでいた。
彼らの作品は海外の映画祭でも上映され、賞も取った。ところが1989年のクーデターによって独裁政権が生まれ、映画は製作も上映もできなくなってしまう。彼らは亡命したり、投獄されたり。30年近くたって再開した彼らは、過去の映画を探し、巡回上映をして回る。
彼らが80年代に作った映画の断片も出てくる。映画アーカイブにはボロボロのプリントがある。倉庫からはシナリオも出てくる。モスクワの国立映画学校に留学したスレイマン・イブラヒムは、母校にロシア語で電話をかける。賞を取った卒業制作のプリントはないだろうか、と。しかし先方の返事は冷たい。
巡回上映はスクリーンが必要だが、ない場所も多い。何とか上映にこぎ着けるが、近くのモスクから聞こえる「神は偉大なり」という大きな祈りのマイク音にかき消される。あるいはスクリーンは砂嵐にはためく。それでもチャップリンはいつも盛り上がる。
ある時、彼らはかつての映画館「革命シネマ」を復活させようと考える。今ではサッカー場で大勢の若者がいるので、彼らにどんな映画を見たいかというアンケートを取り始める。「新作のアクション映画」という意見が多いが、意外にインド映画が人気があり、アミターブ・バッチャン主演でと言う者もいる。
ところが常設の映画館には当局の許可がいる。あちこちに電話をし、手紙を出すが断られる。彼らが上映しようとしたのはタランティーノの『ジャンゴ 繋がれざる者』だが、その機会はなかなか現れない。
4人の元監督たちの佇まいがいい。いつもケラケラ笑いながら、当局を笑い飛ばす。特に背の高い坊主頭のイブラハム・シャダットの諦めたような笑い顔や寂しい後ろ姿はいつまでも見たくなる。見終わって、『サンセット大通り』は彼らの話だったことに気づき、愕然となった。
監督は1979年にスーダンで生まれてパリで映画を学んだスハイブ・ガスメルバリで、最初の長編という。フランスやドイツとの合作だから作れたのだろうが、この続編を見たい。
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