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2020年6月21日 (日)

『Motherマザー』の描く母親像

7月3日公開の大森立嗣監督『Motherマザー』を試写で見た。大森監督は『日日是好日』のような、いい人しか出て来ない映画も撮れるが、やはり『ぼっちゃん』とか『タロウのバカ』のように悪を描いた方が本領を発揮する。それも実際にあった事件を彼なりに自由に料理すると、実に怖い映画ができあがる。

今回の『Mother マザー』は、これら2本に比べると暴力が少なくいささかソフトなのは、主人公が女性だからだろう。だからというか、それゆえになのか、長澤まさみ演じる母の秋子には、およそ感情移入ができない。

息子の周平を実家に連れて行っては、両親に金をせびり、母親や妹に罵られる。昼間からパチンコやゲームセンターに行き、ホストの遼(阿部サダヲ)と出会う。息子を家に置いて遼と何週間も出かけたり、秋子に気がある市役所職員を脅して金を取ったり、ラブホテルの従業員と関係を持ってそのホテルに住み続けたり。

遼が出てゆき、5年後。17歳になった周平には、母と遼との子供である妹の冬華がいた。一時期は児童相談所の亜矢(夏帆)に世話になって狭い簡易宿泊所に住むが、遼がまた戻ってくる。彼は借金取りに追われて再び去ってゆく。周平はつくば市の造園会社で働き始めるが、秋子はそこの社長と関係を持ってしまう。それでもお金がなくなった秋子は、ある犯罪を周平に持ちかける。

秋子は男にはだらしなく、全く働こうとしないうえ、息子を使って金を稼ごうとする。両親や妹も含めてまともな人間の言うことには一切耳を貸さない。まさに「毒親」で全く同情の余地はないが、それをあそこまで堂々と続けられると、凡人がわからない信念に基づいているのかとさえ思う。そしてそんな母に周平はしっかりついてゆく。

5年たって秋子は白髪が目立ち、老けている。周平はそんな母を守ろうとしている。その2人の強い結びつきに、秋子の生き方というものをだんだんと理解し始める。ラストで1人になった秋子が写ると、何となくわかったような気分になるから不思議なものだ。

冒頭の坂道で歩いて登ってくる息子と自転車で降りる母が出会うシーンから、映像にまとわりつくどよんとした濃厚な雰囲気が最後まで続く。住む場所は何度も変わるが、どこにも秋子から出る粘液のようなものが沁みていて、周囲を変えてゆく。これがこの監督の才能なのだと思った。この夏一番の話題作だし、長澤まさみの転換点となる作品だろう。

 

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