『君はなぜ総理大臣になれないのか』に泣く
大島新監督のドキュメンタリー『君はなぜ総理大臣になれないのか』を劇場で見た。もともと選挙のドキュメンタリーは、マック赤坂を追いかけた『立候補』(2013)もそうだが、おもしろい。それにこの映画は1人の国会議員を17年も追いかけたと聞いて興味が湧いた。
いやー、おもしろかった。ドキュメンタリーだと公開中の『三島由紀夫vs東大全共闘〜50年目の真実〜』 くらい血沸き肉躍る作品だった。実を言うと、2、3回泣いてしまった。
主人公は小川淳也という49歳で当選5回の衆議院議員だが、私はその名前を知らなかった。彼と政治行動を共にしたという同じ高校の2つ上の先輩の玉木雄一郎については、希望の党や国民民主党の代表として知っていたがあまりいいイメージはない。
総務省の官僚だった小川は32歳で初めて立候補する。自分の妻が同級生という大島新監督は、彼をフィルムに収め始める。香川一区には自民党の平井卓也議員がいたが、平井は四国新聞のオーナー一家で、地元紙に自分に有利なように書かせることができた。結局小川が小選挙区で平井に勝ったのは一度だけ、民主党が政権を取った2009年。
あとはいつも負けて四国ブロックの比例代表で復活する。映画が始まるのは、2016年に大島新監督が『君はなぜ総理大臣になれないのか』という題名を小川に提示して、本格的に映画として完成させる意志を示してから。だから2017年の総選挙が一番の山場となる。師事していた前原誠司に従って民進党を離党して希望の党へ合流したことが響き、僅差で平井に敗れて比例復活。
2003年から撮っているから、監督への小川の信頼は厚い。それが画面から伝わってきて心地よい。そして両親や妻や2人の娘もしっかり写っているが、彼らも信頼している。年とともに家族も変わってゆき、彼らの痛々しい気持ちが画面から伝わってくる。
2017年の選挙の出陣式での慶大教授の応援演説が泣ける。というよりそれを聞く小川や家族を見ているだけでたまらない。そして選挙に負けた時にまた泣く。その後希望の党を離党して立憲民主党の会派に加わり、2018年の国会での質問は見事だった。その気迫にこれまでの苦労の蓄積を感じた。
一言で言えば、今一つさえない議員を追ったドキュメンタリーだが、主人公がとにかく誠実で好感が持てること、応援する家族がすばらしいこと、彼らを17年追いかけた監督への信頼が映像に感じられることで、一つの力強い作品になった。とにかく最初から最後まで目が離せない。
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