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2020年7月16日 (木)

ふらふらと『てんやわんや』を見る

また国立映画アーカイブの「松竹映画の100年」を見に行った。渋谷実監督の『てんやわんや』(1950)を見たが、もともとその日はほぼ同じ時間に10月16日公開の黒沢清監督『スパイの妻』の試写を見ようと思っていた。

試写状を持って早めに家を出たが、コロナ禍で座席が半分なので京橋の試写室だと30分前でも入れるかわからない。もし入れなかったらどうしようかとスマホを見ていたら、国立映画アーカイブが近くにあった。

前に書いたように、ここは前日までの予約制が原則。ただし障害者とキャンパスメンバーズ(大学が加入すれば、学生・教員は無料)のみは席が空いていたら当日無料で見ることができる。とりあえず駅から近いアーカイブに行ってみたら席が取れた。そのままスイスイと階段を上がってしまった。

『てんやわんや』はかつてVHSが出ていたがDVDはない。もともと渋谷実監督はあまりDVDがないのだ。7、8年前に卒論で取り上げた学生がいた時は自分も見ておらず苦労した。1950年の『てんやわんや』は、今では何より淡島千景のデビュー作として有名だ。冒頭に彼女の名前の横に「入社第一回作品」と出てくる。

彼女が演じるのは出版社・鬼塚社長(志村喬)の秘書。映画は佐野周二演じる会社員の犬丸がこの会社を訪ねると、社長が蒸発して大混乱(てんやわんや)に陥っているところから始まる。犬丸はスパイ扱いされるが、一緒に社長を探すと、その秘書は屋上で水着で日光浴中だった。これがスタイルがいいし、その図抜けた明るさが眩しい。

犬丸を気に入った秘書は社長がいるはずだと、怪しげなキャバレーに連れて行く。犬丸は社長に四国の伊予にある相生町に秘密の品を届けるよう頼まれる。犬丸がそこに行くと、旅館の主人(三島雅夫)の手配でまた大混乱に巻き込まれる。こちらの「てんやわんや」が本格的で、マラソンの間に饅頭を50個食べる競争をしていたり、四国独立の運動が宗教(求心教)として始まったり、山奥に泊まった犬丸にそこの娘(桂木洋子)が夜の相手で現れたり。

そこに鬼塚社長と秘書が現れて、秘書と犬丸の恋が始まる。秘書が怒って犬丸の手に噛みついたりとなかなか楽しい。最後はお祭り(冒頭にも出る)で楽しく終わるが、妙な感じが残るのは伊福部昭の音楽のせいか。

もともと佐野周二演じる犬塚は「てんやわんや」の東京が嫌で郷里の北海道に帰ろうと思っていた。四国でもいいやと思っていたが、そこには東京以上の「てんやわんや」があったという次第。淡島千景を筆頭に、志村喬や三島雅夫、そして相生町の薄田研二、藤原釜足、三井弘次のトリオもみな動物的に動き回るが、何も考えていない。

佐野周二の困った顔が戦後5年目の日本の不条理を見ているようで、見ていてどうも落ち着かない。音楽もそうだが、カメラの動きも不安を増す。こんな映画は今ではとても作れないだろう。

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