« 『一度も撃ってません』を楽しむ | トップページ | オンライン授業でわかったこと:その(6)2か月がたって »

2020年7月 7日 (火)

『イタリア芸術のプリズム』についてもう一度

岡田温司著『イタリア芸術のプリズム』について思いつくことがあったので、もう一度書く。この本はパゾリーニやアントニオーニやフェリーニやベルトルッチなどのイタリアの監督の映画が、どれだけイタリアの絵画を中心として文学、哲学、宗教に影響を受けたかを書いたもの。なかでも私にはパゾリーニについての文章がおもしろかった。

『ソドムの市』(1975)の舞台となるファシストたちのいる室内がアール・ヌーヴォーやアール・デコの様式の家具で占められており、権力者が座る椅子がマッキントッシュのデザインになることや広間に飾られた絵が未来派的な作品であると言われるとそうかもしれないとは思うが、少なくともそう明示した者はたぶん日本ではいない。

もちろんパゾリーニはそれらを否定的に用いている。ボローニャ大学で美術史家のロベルト・ロンギに大きな影響を受けたパゾリーニは、ジョットやカラヴァッジョなどの古典的な美学を重んじ、ジャクソン・ポロックやアンディ・ウォーホルなどはあまり評価しなかった。『テオレマ』(68)で画家が出てくるのは、明らかにポロックを皮肉っているという。

映画も絵画も、基本的には長方形の平面の視覚芸術だ。映画の場合はそれが動き音が出るが、四角の画面は続く。ここに絵画的なインスピレーションが入り込むのは少しも不思議ではない。こうした「映画の図像学的研究」は日本映画についてあるのか考えてみた。

高畑勲監督が絵巻物をアニメと比較した『十二世紀のアニメーション―国宝絵巻物に見る映画的・アニメ的なるもの』(99年)という本がある。これは「鳥獣戯画」などの12世紀の絵巻物が、いかにアニメ的発想に満ちているかを具体的に場面ごとに示したもの。私にはむしろ高畑勲の『かぐや姫の物語』(2013)を見ると、彼が絵巻物に大きな影響を受けたのはよくわかる。

ふとおもいついたのが古賀重樹著『一秒24コマの美 黒澤明、小津安二郎、溝口健二』(2010年)で、この本はこの三人の巨匠に出てくる絵画や絵画的イメージを追いかけていたと思う。

また東京国立近代美術館フィルムセンター(現・国立映画アーカイヴ)で二〇一三年末から翌年初めに開催された「小津安二郎の図像学」展は、古賀重樹氏の本のうちの小津を展覧会にしたようなもので、小津の映画と実生活における絵画やデザインのイメージを具体的に見せたものだった(残念ながらカタログは作られていない)。

日本では岡田温司氏によって始められた「映画の図像学的研究」には、広大な未開の地が広がっている。もちろんこれには岡田氏のように映画通の美術史家か、美術史に通じた映画史家が必要だが。

|

« 『一度も撃ってません』を楽しむ | トップページ | オンライン授業でわかったこと:その(6)2か月がたって »

書籍・雑誌」カテゴリの記事

映画」カテゴリの記事

コメント

コメントを書く



(ウェブ上には掲載しません)


コメントは記事投稿者が公開するまで表示されません。



« 『一度も撃ってません』を楽しむ | トップページ | オンライン授業でわかったこと:その(6)2か月がたって »