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2020年7月30日 (木)

『誰がハマーショルドを殺したか』の怪しい面白さ

映画『パブリック 公共図書館の奇跡』はBLM運動を予言していると言われて見たらだいぶ違ったが、「黒人問題」の根深さを強く感じたのは数日後に見たドキュメンタリー『誰がハマーショルドを殺したか』だった。これはデンマークのジャーナリスト、マッツ・ブリューガーの監督によるものだが、まず出てくる本人がちょっと怪しい。

冒頭は1961年に国連事務総長のダグ・ハマショールドを乗せた飛行機が墜落して乗員16人が死亡する事件から始まる。私の生まれた年なのでこの事件は覚えていないが、「ハマショールド」という名前は私の中で何となく暗いイメージの記憶の中にある。

アフリカの独立を推進したハマショールドは暗殺されたのではないか、と何度も言われてきたという。マッツ・ブリューガーはこの事件を掘り起こすため、調査員のヨーランと共にコンゴや南アに向かう。

彼はコンゴと南アのホテルにそれぞれ黒人女性秘書を雇い、真っ白な服を着て自分が話す報告を旧式のタイプライターに打たせる。彼が話す場面が、事件を知る人々へのインタビュー映像につながってゆく。

その自作自演ぶりと過去への探索はまるでオーソン・ウェルズの『市民ケーン』(1941)のよう。マッツとヨーランは飛行機が墜落したザンビアのンドラ空港跡地で金属探知機で事故の残骸を探す。強い反応が出る場所が見つかったが、ザンビア当局から発掘を禁じられる。

一方、南アのアパルトヘイト時代の調査によって、南アフリカ海洋研究所(サイマー)の文書からハマーショルド暗殺の文書が見つかった。映画は途中からこのサイマーの謎を追いかけ始める。

するとサイマーのトップで白人主義者のマスクウェルの存在が現れ、その犯罪を告発して暗殺された女性海洋学者の存在が明らかになる。しまいには元サイマーのメンバーで、サイマーはエイズ菌を予防接種として黒人にばら撒いていたと証言する男が現れる。あるいはマクスウェルの小説のような回顧録まで出てくる。

そしてサイマーの背景に英国のMI6や米国のCIAの存在が浮かび上がる。見ていて何となく陰謀説のようだが、裏づける文書やインタビューが続々と出てくる。ハマショールド事件の真相解明から南アのサイマーを中心とした世界的な反黒人主義の告発へと向かうが、調べている2人の男はまるでちょっと間抜けな探偵コンビのように、行きつ戻りつ進める。

白い服を着て偉そうに秘書に口述筆記する監督の姿は、実はマクスウェルを真似したものだと途中で気づくが、何と怪しい姿だろう。事実を追いかけながらあえてフィクションのように見せてゆく、不思議なドキュメンタリー映画だ。これは今、必見の珍品ではないか。

 

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